ラストノート
高速道路を出て、公道に入ったあとも俺は軽快に車を走らせる。隣の和泉は目線を窓の外に向け、何かを考えているようだった。ふと、和泉が窓のドアを開ける。風に乗って、潮の香りが僅かに漂ってきた。
浜辺につき、車をおりると早朝の海には、まだ人がまばらだ。和泉が遅れて車を降りる。俺はその横に歩み寄った。
「...海って思ったほど青くないですよね」
「あ?...まぁ、確かにな」
和泉は静かに歩き出した。その後ろ姿を見つめる。高校の頃と比べて随分と背は伸びた。けれどその細い首や、しっかり伸ばされた背筋は変わらない。その背に語りかけるように声を張り上げる。
「いい香りだろ、潮の匂いってのは」
和泉はこちらを振り返って薄く微笑んだ。
帰りの車で和泉は見慣れた白い箱を取り出し、煙草に火をつける。この車の中ではその行為を咎める物は誰もいない。苦く、重たい煙草の薫りが二人の間に満る。
この薫りは呪いだ。肺胞の奥の奥にまで入り込み根を張る。この薫りの呪縛にとらわれたまま、俺たちは煙の中で息をしていく。
「和泉...また、海行こうな」
そう言ってその横顔を見つめる。和泉は目線を自分の右手にある煙草に落とし、微笑んだ。
「...ええ、また、煙が晴れたら」
俺は、その声を聞き、ハンドルを握り直した。
シガレットコンプレックス @minirekiss
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