第6話 見え始めた終わりの刻
3人を見送った後、私は1人海を眺めていた。
「じゃあみっちゃんまたね」
きっと今世の愛羅は私のことを覚えてはいないのだろう。
それでも元気でいてくれたこと、こうして巡り会えたことに胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「残り2年、どうか健やかで」
あれから月日が経ち、今年も夏が来る。
「みっちゃん海の家でバイト始めたって本当だったんだ」
「うん。ここで働いてたらまた3人と会えると思って」
「健気だなー誘ってくれたら皆で遊びに行くのに!」
「ふふ。スマホ持ってないし私水辺とか高い所も苦手だからさ、3人のおみやげ話が聞けたら嬉しいかな。愛羅ちゃんは最近どう?」
「えー?特に何もないよ〜笑」
3人とはバイトの暇な時間や帰りに談笑できるぐらい仲良くなれた。
アンドロイドであることは気付かれたくない。
来年を乗り切れば、3人は高校を卒業するし私も地元を離れたという体で自然にフェードアウトができる。
海の家も最終日。
台風が近付いている関係で早目に閉めることになっている。
この日は愛羅が1人でやってきた。
「いらっしゃいませ〜。1人で珍しいね、どうしたの?」
「…ねえみっちゃん、私に何か言うことない?」
「どうしたの急に」
雨の音がいやに大きく聞こえる。
「私ね、昨日夢を見たの。小さい頃の私が海に落ちて、みっちゃんが助けてくれる夢。すごくリアルで怖かった。」
「…愛羅ちゃん」
「ねえみっちゃん、みっちゃんも前世の記憶があるんでしょ?だって名前聞いたとき名乗らなかった、みっちゃんってあだ名は昔の私がつけた…あれ、待ってみっちゃんって…」
「…愛羅ちゃん、確かに私は貴方をよく知っているよ。でも今の貴方じゃなくて、数代前の貴方。」
「愛羅ちゃんから見たら前世、だけど私は少し違う。数代前から私は変わっていない。だって私はアンドロイドだから。」
その後のことはよく覚えていない。
海の家の店主さんが電車が止まる前に帰りなって声をかけてくれたことで、ハッとして海の家を出た。
みっちゃんは、人間じゃなかった。
頭が追いつかない、見た目は確かに私達と変わらない歳の女の子で、アルバイトをしていて、普通に会話ができていて。
でも確かに思い返せば不思議な点はあった。
「スマホ持ってないし水辺とか高い所も苦手だから」
今時スマホを持っていないことも珍しいが、水辺が苦手なのに海の家で働いたりするだろうか?
「もしかして、これまでの私との出会いが海辺だったから…?」
ぼやけた記憶の輪郭がはっきりしていく。
考えてみたらみっちゃんが飲食をしている所も、眠たそうにしている所も見たことがない。
気付けば私は風香に電話をかけていた。
「愛羅?どうしたの?」
「風香、気を悪くしたらごめん。風香って本当にみっちゃんのこと覚えてない?」
「みっちゃん?知ってるよ海の家でバイトしてくれてるじゃん」
「そうじゃなくて、前世っていうか、今のじゃなくて」
「…あー、そういうことか」
「風香…?」
「覚えてるよ、何代も前から愛羅のことを守ってる見守りアンドロイドでしょ」
「え…」
「ねえ愛羅、私結構しっかり覚えてるって言ったよね?前世の愛羅がどうなったのか、自分で覚えてる?」
「前世の私…?」
「そう。前世の愛羅はね、高3の時に海辺で波に飲まれるの。それを見ていたみっちゃんが助け出して一命を取り留めるんだけど、気が付いた時にみっちゃんがいなくなったことに取り乱して見てられなかったんだよ。」
「そんな…」
「見守りアンドロイドは一時的にショートすることはあるけど早々壊れない、何度も伝えたのに私のせいだって聞く耳持ってくれなくて」
「…」
「だから今回堤防で出会った時、愛羅の反応を見て思い出せていない、ならこのまま時間が来るまで忘れてくれればいいと思ったの」
「時間…?」
「見守りアンドロイドは子供と一緒に育つがコンセプト。だから愛羅が18になったら自動的に知らない所でスリープモードに入るの。そしたら今世では二度と会わないよ。」
「…そんな」
「…教えなくてごめん。でも愛羅が傷付く所もう見たくなかったの。卒業する頃にはみっちゃんも私達の前には現れなくなるから、後は時間が解決してくれるって思ったから」
「…謝らないで。私全然覚えてなかった。教えてくれてありがとう。」
「台風来てるから外出ちゃ駄目だよ。おやすみ」
そう言って電話は切れた。
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