第3話 秘湯発見

「やあみんな、そんな所に集まってどうしたんだ?」


 まずは気さくに声をかけてみる。


 すると茂みの奥がぞわぞわした後で、一人また一人とドワーフが現れた。手には斧や剣を握り締めていて、やはり警戒されていることが分かる。


 これはしょうがない話だ。だっていきなり魔物の集団が現れたのだから。


「アンタ……魔物と一緒にいるのかね?」


 筋骨隆々としたドワーフの一人、年配に見える男が訝しげに問いかけてきた。どうやらリーダーらしい。


「そうだ。彼らは元々、俺の部下でね」

「魔物を部下に?」

「悪い連中じゃないよ。魔物ではあるが、人間の味方になったんだ」


 そもそも俺はこの世界で悪役だけどね。でもややこしいし説明して良いことは何もないので、あっさり伝えるに留める。


「そんなわけあるまい」

「長よ、騙されてはいけませんぞ」

「こやつら、森を侵略しに来たに違いない」


 小声で話し合っているつもりみたいだけど、普通に聞こえてる。俺が地獄耳なわけじゃないと思うけど。


「一つ、誤解していることがあるかもしれない。俺はここを支配しに来たとか、略奪をしに来たとか、そういうつもりは一切ない。実はここに、みんなが楽しめる温泉が作れることを知ったんだ。それで、誰でも楽しめる施設を作ろうと考えてる」

「おん、せん?」


 はい、始まりましたよこのリアクションが。「何を言ってますの?」感が全面に出てる。


 ちなみに、後方で待機してる俺の仲間達もそこは一緒。ここで俺はそっとメイドを手招きする。


 ドワーフ達がもう一人の人間を見てざわついた。


「……承知しました。荷物の中ですね」


 イスカが駆け出したところで、俺は一歩、一歩と親しげに彼らに近づいた。


「レ、レオン様……」

「大丈夫だ」


 慌てるガーゴイルレッドやゴブリン達を制止し、あくまで笑顔。


「ここには秘湯が眠っているんだ。それはもう素晴らしいものでね。もし掘り当てたら、お前達ドワーフも客として丁重にもてなしたいと思っている。ちなみに温泉というのは——」


 ここから俺の温泉PRがスタートした。それから温泉旅館についても合わせて説明する。


 温泉というものがどれだけ素晴らしいか、どれほど気持ち良くてこの世界において革命的であるかを、ある時は軽快に、ある時は熱を持って語り続ける。


 ドワーフの長を含め、連中は決して警戒を緩めはしなかったが、少なくとも熱意は伝わっていたと思う。


 だんだん温泉の説明には慣れてきた気がするし、悪役貴族レオンは実力はともかく、見た目的には申し分ない風格を備えている。


 ドワーフ達は徐々に揺らいできたのか、隠れていた他十名以上の連中もいつの間にか姿を見せてきた。でも、奥にもっと隠れているようだ。


 実際はどのくらいの人数がいるんだろうか。そう疑問を覚えつつ語り続けていると、いつしか背後にイスカが戻っていたことに気づく。


「ご主人様。こちらでよろしいでしょうか」

「ありがとう。さて、お近づきの印にこれでもいかがかな」


 ドワーフの長がこれを見てたじろいだ。


「そ……それは! 悪魔の味とさえ称された名酒、イシュタルサワーでは!?」

「そうとも。いかがかね?」


 この世界において、誰もが欲しがる高級名酒をちらつかせたところ、酒が好きなドワーフ達は一気に靡き始めた。


 本当は俺が飲みたくて荷物に入れていたんだけど、ここで役立つとは思っていなかった。ドワーフは酒好き、というのはこの世界で常識なんだ。


「ワ、ワシらを酒で釣ろうとしておりますな! そのような誘惑に、断固として負けるわけにはいきませんぞ!」


 しかし、流石はドワーフの長ともなると違う。


 誘惑に負けるものかと、むしろ警戒心を露わにしていた。


 ◇


「ぐわーっはっはっはー! いやー愉快愉快」


 ……というのも十分くらいの話で、森の中は宴会会場に様変わりしていた。ドワーフちょろい。


 そしていつの間にか、連中も酒や食事をやたらと持ってきたので、イスカや魔物達もご馳走してもらうことになった。


 それでもやはり、一定の警戒を保っている者はいる。これは結構なことだ。どんな世界でも油断は禁物である。


 ただ、ドワーフの長はもはや完全に酔っ払い筋肉ジジイと化している。いいのかよそれで。


「つまり温泉というものを掘り当てたいと。その間、手伝ってくれれば我らにもまたイシュタルサワーをいただけるというわけですな。ならば喜んで、お手伝いしましょうぞ」

「感謝する」


 ちなみに、イシュタルサワーはなかなか高価なお酒である。前世の日本で換算すれば、最低でも一本百万はする。


「他にも珍しい魚とか、ウォレスの市場から持ってきてもいいな」

「ほ、本当ですかな!」


 他のドワーフ達も食いついてる。ウォレスという市場が少し遠くの島にあるんだが、あそこでしか手に入らない魚がいっぱいあるのだ。


「必要なものは、あのデカい魔物が掘削に使える用具と、りょかん? とやらを作ることですな。なーに、造作もない。我らに任せられよ!」


 こういう時のドワーフは本当に頼もしい。森の大工というか、どんなものでも器用に作ってくれるからだ。


 幸い、けっこう離れた所にある町からイシュタルサワーは調達できる。それさえ渡しておけば、いろいろと仕事を引き受けてくれることになった。


「ギャーギャギャ」


 嬉しそうにゴブリンが俺に酒を注いでくる。ガーゴイル達はすでに酔っ払い、同じくして酔っ払ったドワーフと打ち解けていた。


 そしてこの日から、温泉旅館計画は加速していった。


 作業はまず、ゴーレムが扱う巨大な掘削用具を作ることからだ。


 これはドワーフ達が総出で設計から作成してくれた。この地に伝わる鉱石から、非常に強力かつ頑丈なツルハシやスコップを作ってくれた。


 本当はホールディガーとか、アースドリルとかあればいいんだけどね。この文明世界じゃそれは難しい。


 とはいえ彼らの仕事はかなり早く、一週間もかからずゴーレム用のデッカいツルハシが出来上がった。


 ただ、ゴーレムがこの用具を使用するにあたり、必ず前もって扱う場所を告知する約束をすることになった。


 まあ、これほど巨大な魔物がもしツルハシで暴れ出したら、という懸念があるのだろう。


 さらに巨大ツルハシや巨大スコップについては、一つの仕掛けが施されている。グリップの所に特殊な魔石が埋め込まれていて、遠隔からボタンひとつでバラバラにできるというのだ。


「悪く思わんで下され。どのような者であれ、乱心せぬとは限りませんからな」

「構わん。むしろこういった準備も必要だろう」

「おお、レオン殿は話しがわかる」


 ここ数日で、ドワーフ達ともだいぶ打ち解けてきた気がする。彼らはよく働く。


 ウチの魔物達も、右に左に忙しく動き回っていた。イスカも料理や洗濯に忙しい。


 俺はといえば、みんなにあれこれ指示が必要なので、一番大忙しになっていた。四時間睡眠くらいで奮闘している。


 まあ、こういった苦労は今だけで、後々はオーナーとして楽な生活を楽しむつもりだ。


 そしていよいよ巨大用具が出来上がり、ゴーレムが掘削を始めると、ものの数分でどんどん掘られていくようになった。


 これは見ていて気持ちが良い。砂も土も岩盤も、ドワーフ特性ツルハシならサクサクいけてしまう。


 ある程度の場所を見積もり、俺はいよいよ旅館建設の準備も始めていた。秘湯発掘班と旅館建設班、二組を同時進行させようと考えたのだ。


「ご主人様。りょかんというのは、こんなにも場所を取るものでしょうか。私達が住んでいたお屋敷より、広くなりそうですが」

「ああ、そうだ。旅館も温泉も、かなり広くするつもりでいる。三百人くらいは余裕で泊まれるようにしたいな」

「そ、そんなに……!」


 これにはクールメイドもビックリ。でも、この土地なら余裕でそのくらいの宿は作れる。なにしろスケールが違うんだから。


 従業員も沢山雇わないとな……などと考えていた時だった。ガーゴイルブルーが慌てて飛んできたのだ。


「申し上げます。先ほど、ゴーレムが奇妙なものを掘り当てたようです」

「きたか」


 報告を受けるなり、俺は現地へと急いだ。


 そしてやってきた岩場を目にして、頭の中が真っ白になる。


 黄金色の輝きが、掘られた岩の奥から垣間見える。さらさらと美しく澄んだそれは、ゲームで見たあの秘湯と同じだった。


「で……出た。秘湯が……秘湯が出たぞ!」


 気がつけば叫んでいた。みんなのおかげで、こんなにも早く掘り当てることができた。


 なぜか黄金のオーラに包まれたそれは、透明で暖かく決して汚されることがない。人智を超えた奇跡の秘湯は、こうして見つかったのだった。

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