第8話:この気持ちは?!

文化祭から二週間。
 十一月。
 教室の窓から、枯れ葉が舞う。

 私は、机に頬をついて、ぼんやりしていた。
 ――夏帆。
 ――「私のもの」。
 ――嫉妬。
 ――ドキドキ。
 頭の中は、あの日からぐるぐる回る。
 胸の奥が、熱くて、ざわざわする。
 ――なんで?
 ――友達なのに。
 ――でも、違う。
 ――違う気がする。

 昼休み。
 夏帆は、部活の打ち合わせで遅れる。
 私は、一人で屋上へ。
 風が冷たい。
 ――一人。
 ――でも、寂しくない。
 ――夏帆が、戻ってくる。
 ――それだけで、安心する。
 私は、フェンスに寄りかかって、空を見た。
 ――雲が、ゆっくり流れる。
 ――あのとき、夏帆が言った。
 ――「美玲ちゃんは、私のもの」。
 ――耳が、熱くなる。
 ――胸が、ドキドキ。
 ――この気持ち。
 ――わからない。

 放課後。
 家に帰る。
 母が、キッチンで夕飯の支度。
 私は、部屋に上がって、制服のままベッドに倒れ込んだ。
 ――夏帆。
 ――夏帆。
 ――夏帆。
 頭の中、全部、夏帆。
 ――やばい。
 ――私、どうしたの?

 夕飯の時間。
 リビング。
 父は出張中。母と二人。
 私は、箸を止めた。
 ――聞きたい。
 ――誰かに。
 ――でも、友達に?
 ――純恋に?
 ――違う。
 ――恥ずかしい。
 ――母に?
 ――母なら。
 私は、深呼吸した。
「……ねえ、お母さん」
 母が、顔を上げた。
「なに?」
 私は、声を震わせて、
「好きな人……って、どうやってわかる?」
 母は、瞬きをした。
 ――しまった。
 ――変なこと、聞いた。
 でも、母は、優しく笑った。
「どうしたの? 急に」
 私は、目を伏せた。
「……友達に、相談されたってことにして」
 母は、くすっと笑った。
「ふーん。
 まあ、いいけど」
 母は、箸を置いて、
「好きな人ってね、
 会いたいって思う。
 一緒にいたいって思う。
 その人の笑顔が見たくて、
 声が聞きたくて、
 胸がドキドキして、
 ――でも、怖くない」
 ――会いたい。
 ――一緒にいたい。
 ――笑顔。
 ――声。
 ――ドキドキ。
 ――怖くない。
 私は、息を呑んだ。
 ――全部、当てはまる。
 ――夏帆。
 ――夏帆のこと。

 母は、続けた。
「それが、恋」
 ――恋。
 ――!
 私は、顔を上げた。
「……恋?」
 母は、うなずいた。
「うん。
 恋って、友達とは違う。
 特別な気持ち。
 ――ドキドキして、熱くなって、
 でも、幸せ」
 ――幸せ。
 ――うん。
 ――私、幸せ。
 ――夏帆といると。

 私は、箸を握りしめた。
「……でも、もし、その人が女の子だったら?」
 母は、瞬きをした。
 そして、静かに言った。
「性別なんて、関係ないよ。
 好きは、好き。
 ――それだけ」
 ――それだけ。
 ――うん。
 ――好き。
 ――夏帆が、好き。
 ――私、夏帆が好き。

 涙が、こぼれた。
 ――やっと、わかった。
 ――この気持ち。
 ――恋。
 ――夏帆への、恋。
 母は、ティッシュを差し出した。
「大丈夫?」
 私は、うなずいた。
「……うん」
 ――大丈夫。
 ――やっと、わかった。
 ――私、夏帆が好き。
 ――大好き。

 夜。
 部屋に戻って、スマホを開く。
 ――夏帆。
 ――LINE。
 ――「おやすみ」って、送りたい。
 ――でも、指が震える。
 ――言えない。
 ――まだ、言えない。
 ――でも、気持ちは、決まった。
 ――好き。
 ――夏帆が、好き。
 ――付き合いたい。
 ――一緒に、いたい。

 私は、布団に潜り込んだ。
 ――冬。
 ――もうすぐ。
 ――海。
 ――冬の海。
 ――告白。
 ――決めた。
 ――夏帆に、伝える。
 ――好きです。
 ――付き合ってください。
 胸が、ドキドキ。
 ――でも、怖くない。
 ――幸せ。
 ――夏帆が、好き。
 ――大好き。
 私は、目を閉じた。
 ――夢の中でも、夏帆。
 ――ずっと、一緒にいたい。

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