第3話 拠点
「バートニー、そこの丸太を運んでおいてくれ」
「はい!」
バートニーはしっかりと魔法を使えている。……今までは座学ばかりだったからか、成長が見えるというのは師匠として、嬉しいものだ。
今、僕たちはデトメン付近の大森林に拠点を作っている。
魔力隠しの魔法陣を描いたので、この拠点は安全な筈だ。
「バートニー。この先街に入るのにどうするのがいいと思う?」
建材を整理しながらバートニーに話しかける。実際、デトメンに入らなければ食料……は何とかなるとしても、書物が手に入れられない。魔女をあれ程排斥している以上、デトメンでも同じだろう。
「お師匠様は男性の方ですよね。ならば今のように髪を結んだりせず、堂々としていればよいのではないでしょうか?」
「……それもそうだな」
女として育てられていた影響で当たり前のようにやっていた事をやめればいい。
……なぜ僕は気付けなかったんだ。
モヤモヤとしたまま、簡易の小屋を完成させた。
翌日、長い髪は切り、服装はいつものシンプルなローブ。
デトメンの街に入ったが、とくに問題はなかった。食料と、仕事の見立て、書物の情報集めと忙しく街を回っていた。
日が落ちそうだ。
魔女が関わらないのなら、デトメンの街は平和そのもの。相変わらず魔女の処刑の話題は尽きぬようで、楽しそうに街の人たちは死んだ魔女の話をする。
白教に所属する騎士達は街を見回ってるようで、その時にスリが一人騎士に確保されていた。
街の人からすれば、服装の違う衛兵が増えた感覚なのだろうか。
「バートニー。帰ったぞ」
「おかえりなさいお師匠様!」
うるさいくらいの声だが、これがないと帰った気がしない。それくらい日常はこのバートニーのあいさつから始まり、終わるものになっていた。
今日の授業は何をしようかと考えていたが、今手元には魔法書が一つもない。
「バートニー。今日は簡単な魔法を実際に使ってみようか」
「お師匠様……ついに……!」
「まぁ、もう少しちゃんと教えることがあったんだが、魔法書が何もないからな」
「はい……!」
感極まっているようだ。なんだが大魔法の一つでも売って欲しいものだが、歳も魔力も足りない。何より、安全に考慮して最初は結界魔法からだ。
「魔法使いにとって、一番大事な魔法とはなんだバートニー」
「延命魔法です!」
「……そうだな」
たしかに僕も延命魔法と結界魔法ならば延命魔法を選ぶ。それがないと時間が足りなくて大魔法など使えるはずもないからな。
「だが、魔法を防ぐ。いわば基礎的で大事な魔法は結界魔法だ」
「はい!結界は大事です!」
結界魔法とは言うが、沢山種類がある。だが、バートニーに結界魔法を教えるのには少しだけ特殊な事情がある。
人には、適正というものがある。魔法に限った話ではないが、適正にあった事をするのは成長する上で最も効率的な手法になる。
「バートニー。結界魔法はできるか?」
「やってみます!」
バートニーは手を目の前に突き出し、魔力を形にしていく。
半透明の結晶が空中に生成され、外側へと広がっていく。
そして……
パリンッ!
「あぁ……割れてしまいました」
「そういう物だ。習うより慣れろ。何度もやっていれ慣れるものだ」
「はい!」
結局日が落ちるまで練習し、魔力切れが近くなってきたので切り上げた。
バートニーは疲れた顔で今にも寝そうな顔をしている。
「バートニー、ごはんは食べないのか?」
「……あ……お、お師匠様ぁ〜」
……返事すらできないか。
バートニーを背負い、ベットに寝かせる。すぐに寝たようだが、不安そうな顔をしている。
「大丈夫だバートニー。僕が責任を持って一人前にしてみせるからな」
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