第二話 翌日の再開
病院で会った翌日。
朝早くに教室へ行くと、まだ誰も来ていなかった。
――早く着きすぎたか……。
そう思って図書室へ向かうと、窓際で本を読んでいる星影さんの姿が目に入った。
昨日と同じ、落ち着いた雰囲気だ。
「……星影さん、だよね?」
声をかけるべきか少し迷ってから、小さく呼びかけた。
星影さんはゆっくり顔を上げて、こちらを確認するように見つめた。
「……岡部くん、だっけ?」
「うん。昨日は、どうも」
彼女はほんの少しだけ首を縦に振った。
昨日のお礼を言うでもなく、でも無視するでもなく、
“知っている人に対する最低限の反応”という感じだった。
それが、逆に自然に思えた。
「どうして図書室に?」
彼女が控えめに聞いてくる。
「ちょっと早く来すぎて……教室だと誰もいないし、静かなほうが落ち着くから」
「……そうなんだ」
星影さんの声は小さく、どこか遠慮がちだった。
けれど、さっきよりわずかに柔らかい気がした。
少し沈黙がおりる。
図書室の静けさが、その沈黙を無理なく包んでくれる。
「昨日、病院にいたよね」
僕は、なるべく軽い声でそう切り出した。
無理に踏み込まないよう、慎重に。
彼女はゆっくりページを閉じ、僕を見た。
「……うん」
短く返すその声には、少しだけ戸惑いが混じっている。
「理由、聞いてもいい?」
「…………ごめん。今は言えない」
即答ではなく、少し考えてからのその言葉。
拒絶ではなく、“境界線を守るための答え”のように思えた。
「そっか。無理に聞いてごめん」
「ううん……」
そのとき、登校時間五分前のチャイムが鳴った。
「そろそろ行かないと」
「うん。じゃあ……行こうか」
僕たちは並んで歩き出したが、話すことはなかった。
無理に距離を詰めない、そんな静かな並歩だった。
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