第二章 5月:初めての交流
第一話 偶然の出会い
5月に入って少し経った頃、僕は家の近くの、とある病院にいた。
といっても、熱が出たとか病気があるとか、そういうわけではない。
体育の授業中に足を変な方向にひねって、軽い捻挫をしてしまっただけだ。
当日はなんともなかったが、一日たっても痛みが引かないので、一応病院を受診することにした。
受付で体温を測り、問診票を提出して待合室で待っていると、白い服を着た女の子と目が合った。
――もしかして、星影さん?
僕は半信半疑で声をかけた。
教室で何度か見かけたことはあったが、そのときは制服姿で、いつも自分の席に座っていた。
しかし、今の彼女は私服を着ていて、どこか穏やかな表情をしていた。だから、一瞬わからなかったのだ。
「うん……」
彼女は少し驚いたような声で返事をした。
――ちょっと怯えてる、かな?
「……君は?」
「僕は同じクラスの岡部桜一郎。」
「あ、そういうことか!」
彼女は納得したように表情を和らげた。
「私は星影舞桜です」
「よろしく」
「よろしく」
そう言い合っていると、
「星影さん、診察室にお入りください」
という声が呼び出しスピーカーから聞こえた。
「じゃあ、私行くね」
「うん」
彼女が立ち上がって診察室のほうへ歩いていくとき、彼女の座っていた椅子の下にハンカチが落ちているのに気づいた。
僕はそれを拾って彼女に声をかけた。
「星影さん、これって君の?」
「そうだよ」
「さっき座ってた椅子のところに落ちてたから」
「ほんと? ありがと」
そう言って、彼女は診察室の中へ入っていった。
お礼を言ったその顔は、ほんの少しだけ微笑んでいた。
その後すぐに僕も診察室に呼ばれ、診察を終えて外に出たときには、彼女の姿はもうなかった。
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