End8

 目が覚める。

 辺りを見渡す。

 いつもと変わらない自分の寝室の光景だ。

 ただ一つ、布団のちょうど腹の上辺りにナイフが置かれていることを除いては。

 恐る恐るナイフを見つめる。

 ナイフは鈍く銀色に光っていた。

 その光は己を飲み込みそうな、狂気的な美しさを持っていた。


 ナイフを手に取りますか?


 Yes

 No


「Yes」


 その美しさに魅入られてナイフを手に取った。

 それは手に吸い付くかの様によく手に馴染む。

 己の心の奥底の渇望が膨れ上がった様な気がした。


 どうする?


 窓の外を見る

 ゲームをする

 踊る


「窓の外を見る」


起きたばかりなのか、まだ眠い。

朝の冷たい風でも浴びてすっきりしようと思って窓際へより、カーテンを開ける。

窓には見慣れた住宅街の中の景色が映っていた。

鍵を開けて窓を開けようとする。


だが、何故か窓は開かなかった。

寝ぼけて鍵を開けるのを忘れたのだろうかと思って、鍵をもう一度見る。

鍵はしっかり開いてみた。

自分が出せる限界の力を出して、窓を開けようとしたがどうしても開かなかった。

疲れて思わず俯く。

普通は開くはずの窓が開かないことから、一つの結論へと辿り着く。


どうやら、俺はこの家に閉じ込められたらしい。

どうにか窓から外に出れないかと思って、部屋の中にあったダンベルを窓に向かって投げてみる。

ダンベルは窓にしっかりと当たったが、窓はびくともせず、ひびすらも入らなかった。

絶望と、疲労から思わず俯いた。

いったいどうしたら外に出られるのだろうか。


ふと、左手に持っていたナイフが目に映る。

もしかしたら、この鋭そうなナイフだったらあの窓を割ることができるかもしれない。

大きく窓に向かってナイフを振り上げる


窓という概念を殺しますか


Yes

No


「Yes」


窓という概念を本当に殺しますか


Yes

No


「Yes」


窓という概念を本当の本当に殺しますか


Yes

No


「Yes」


ナイフが当たると、窓はただのガラスだったかのように割れ、細かな破片となって散らばった。

ナイフが開けた穴からは風が吹き込んできた。


その風はとても穏やかで、気持ちよかったが、全てを無と化す風だった。

体の風にあたった部分から塵となり、風の一部となっていく。

悲鳴を上げる暇もなく、自分の体や思いといったものはすべて消えてしまった。


Game over


 End8 ゲームオーバー

「……」

by 失敗した人


 ルールというのはもともと、何かしらの理由や意図があってつけられているものである。

 だからルールを何も考えずに、何も知らずにに破るとひどい目にあうかもしれない。

 例えば、何もない空間に永遠に閉じ込められるとか。

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