End5
目が覚める。
辺りを見渡す。
いつもと変わらない自分の寝室の光景だ。
ただ一つ、布団のちょうど腹の上辺りにナイフが置かれていることを除いては。
恐る恐るナイフを見つめる。
ナイフは鈍く銀色に光っていた。
その光は己を飲み込みそうな、狂気的な美しさを持っていた。
ナイフを手に取りますか?
Yes
No
「Yes」
その美しさに魅入られてナイフを手に取った。
それは手に吸い付くかの様によく手に馴染む。
己の心の奥底の渇望が膨れ上がった様な気がした。
どうする?
本棚を見る
トイレに行く
夢を見る
「本棚を見る」
ふと、本棚に目が行った。
本棚には自由について書かれた本がたくさん置いてあった。
本を見て思い出す。
そうだ、私は自由になりたかったんだ。
私は、普通の女子高生だ。
勉強に縛られ、交友関係に縛られ、厳しい校則に縛られ、彼氏に縛られ、周りからの期待に縛られ、世間体に縛られ、やることすべてが縛られている、普通に縛られている女子高生だ。
だから私は自由になりたかった。
自由な女子高生になりたかった。
だけど、縛る鎖は思ったよりも硬くて、足掻けば足搔くほど強く縛られ、私は途中で力尽きた。
私は諦めていた。
決して縛りから抜け出すことはできないと。
だけど今私はナイフを手に入れている。
このナイフなら、私の鎖も切れるのかもしれない。
思わず笑みがこぼれる。
さてと、まずはこの本からか。
自由についての本を取りますか?
Yes
No
「No」
以前の私なら手に取っていたかもしれない。
だが、自由というのは私が決めるもので私が自分で得るものだ。
誰かに決められるもの、誰かから与えられるものでは決してない。
こんな本はあって邪魔になるだけだ。
まずは鎖を一本。
後ろを振り返ると、大量の謎の球が転がっていた。
中には感情や、思い出などといった文字が書かれている。
私は一番近くにあった球を拾い上げる。
そこには、交友関係と書かれていた。
殺しますか?
Yes
No
「Yes」
ナイフで横に切り払うと、塵にようになって消えた。
こんなものは要らないだろう。
よく、交友関係は宝だとかいう人がいるが、よくそんなことを言えると思う。
その交友関係を維持するのにどれだけリソースを割かなければならないと思っている。
定期的に一緒に遊びに行かなければならないし、どうでもいい話にも付き合わなくちゃいけない。
相手の心を読んで相手の望むことをしなければいけない。
しかもそれに対するリターンはないことのほうが多い。
もはや邪魔である。
鎖を二本。
次に拾った球には倫理観と書かれていた。
殺しますか?
Yes
No
「Yes」
球にナイフを突き刺した。
球の刺したところからひびが広がっていき、やがて粉々になって砕け散った。
倫理観。これはもはや邪魔なだけだ。
何をするのにもこれが絡んでくる。
あれをやろうとしても、倫理から外れてるからだめ。
ならこれは、とやってみようとしてもやはり止められる。
いったい何ならやってもいいというのだろう。
よく、倫理観において人を殺してはいけないといわれるけど、別に人を殺したっていいだろう。
だって人を殺せないということは自由ではないということだから。
倫理観がなくなった私はもっと自由になった。
鎖を三本。
三つ目に拾った球には、期待と書かれている。
殺しますか?
Yes
No
「Yes」
球をナイフの腹で無理やり押しつぶす。
あまり抵抗はなく、じゃりじゃりとした音を立てながら球はつぶれた。
鎖を
期待。私はこれにどれだけ苦しんできただろう。
何をやるのにも、普通を期待され、普通が付きまとう。
私は一番これを殺したかった。
私に期待してきたやつらに言ってやりたい。
私は私のやりたいことを自由にやる。
だから私に期待してくるな。
私のやることに期待を押し付けるな。
私の人生を期待で縛るな!
親や友人と呼ぶような存在にかけられたの言葉の数々を思い出し、感情を爆発させる。
いらいらして思わず投げたナイフは床へと突き刺さる。
……そうだ。
もう、全部破壊してしまえばいいんだ。
全てを破壊しますか?
Yes
Yes
「Yes」
思わず笑みがこぼれた。
これで私は何にも縛られない、完全に自由な存在だ。
そうして世界は白に包まれた。
End5 破壊神
「私は自由だ。私は自由なんてものに縛られているわけでは決してない。絶対に」
by 破壊神
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