The end

 目が覚める。

 辺りを見渡す。

 いつもと変わらない自分の寝室の光景だ。

 ただ一つ、布団のちょうど腹の上辺りにナイフが置かれていることを除いては。

 じっとそれを見つめる。

 ナイフは鈍く銀色に光っていた。

 それは俺が見慣れた光であった。


 ナイフを手に取りますか?

 Yes

 No


「No」


 俺にはもう、何かを傷つけ、殺す権利などない。

 ナイフを見ると思い出す。

 戦場にいた頃を。

 俺は勲章を貰えるような、世間から見たら素晴らしいと言えるような存在だっただろう。

 だが俺は覚えている。


 戦場での血の匂い。

 痛みによる苦痛の声。

 腕が千切れた仲間の死骸。

 そして俺が殺した命の重み。

 全て、全て


 俺は多くの人の心を傷つけ、殺し過ぎた。

 俺は多くの人の体を傷つけ、殺し過ぎた。

 そして今も傷つけ殺し続けている。

 飯を食べるだけで、動物を殺し傷つけ、植物を殺し傷つける。

 俺には聞こえる。彼らの叫びが。

 痛いと言う叫びが。

 生きている限り俺は何かを傷つけ殺すんだ。


 俺にはもう、刃を持つ権利などない。

 そしてそんな生きているだけで周りを壊す俺はもう、「死んでしまえばいい」。

 俺はテーブルの上に目を向ける。


 テーブルに向かいますか?


 Yes

 Yes


「Yes」


 テーブルの上にあるロープを手に取りますか?


 Yes

 Yes


「Yes」


 輪っかをつくり、ロープを天井につけてある鉤爪に引っ掛けますか?


 Yes

 Yes


「Yes」


 椅子の上に乗りますか?


 Yes

 Yes


「Yes」


 それは最も簡単で最も確実な死ぬ方法。


 輪に首をかけますか?


 Yes

 Yes


「Yes」


 ああ、どうか俺が殺して傷つけたものたちよ、許してくれ。


 俺は椅子を蹴飛ばした。


 The end

「死は、俺にとっては救いなんだ。苦しみから逃れる唯一の」

 by 殺し人





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