第14話 ワクワクしない?

プロの公式戦もアマチュアの公式戦もすべて日本ボウリング協会が管理する、公式ボウリング場で行われる。

この森崎もりさきボウリング場もその1つである。


公式ボウリング場はすべて5階建てでできており、1階は準決勝、決勝戦、3位決定戦で使われ、2、3、4、5階が予選と本戦の1回戦と2回戦に使われる。


2~5階には、ズラ~ッと100レーンまで並べられていて、1人1レーン用意されている。用意されたレーンで10Gまで投げ、合計スコア上位16名が本戦へと上がれるのだ。



猛進もうしんに用意されたレーンは3階の28番レーンである。


そのレーンの前にたくさんのお客さんが集まっている。


「おぉ。すごいね、うりにぃ。投げる前から人気者だ。」


そう猛進の横に立ちながら応花おうかが声をあげる。


「バーロー。お客さんの目当てはオレじゃなくて、注目してる男だよ。」


ひねくれた様子でそう言う猛進に応花は微笑みを向ける。


「理由なんて何でもいいじゃない。

これだけのお客さんを、うり兄の超速ストレートでとりこにできると思うと、ワクワクしない?」


応花の言葉を聞いて、どんどんと増えていくお客さんたちを猛進は再度見つめ、軽く笑みをこぼす。


「あぁ。そうだな。」


猛進の目に熱く燃える火が灯される。


《お待たせいたしました。これより、アマチュア公式大会2094、2月の陣、森崎ボウリング場、予選開始です。》


アナウンスが会場に響き渡ると同時に、開始のブザーが鳴る。


「猛進のおばさんとおじさん、遅くなるって。」


関係者席に座っている応花にじゅんが声をかける。


「そうなんだ。まぁ、本戦に間に合えば大丈夫でしょ。」


「予選落ちってパターンはないのか?」


そう尋ねる純に応花は目線を向ける。


兄々にぃにぃ。公式戦とはいえ、うり兄がアマチュアの大会で予選落ちすると思ってるの?」


「いや、まったく。」


そう返事を返しながら、純は目の前の猛進に目線を向ける。


{これだけのお客さんをうり兄の超速ストレートで虜にできると思うと、ワクワクしない?}


応花の言葉を思い出しながら、猛進は深く息を吐き出して集中する。


「さ~ぁて、初陣といきますか。」


そう呟くと、猛進はいつものテンポで助走をつけ、ファウルラインぎりぎりでしっかりと足を止め、左腕を大きく上げる。


そして、身体に流れるすべての力を左腕からボールへと流し、その力を解放するように、ボールを放つ。


放たれた白桃色のボールは、ものすごいスピードで真っ直ぐ1番ピン正面を貫く。


──カランカランという耳心地のいい音を響かせながら、10本のピンすべてが倒れていく。


猛進のブレることのない超速ストレートに、28番レーンに集まった観客たちは興奮の声をあげる。


「やっぱ、あいつはプロになるべき男だよなぁ。」


突然の純の発言に応花は「え?」と驚く。


「これだけの人を熱くさせるボールを投げるんだ。それも、今日初めて見る人たちだぜ?

そんな男はやっぱり、プロの道に進むべきなんだよ。ボウリング界やボウリングファンのためにもな。」


そう嬉しそうに笑みを浮かべながら純は話す。


そんな純から猛進へと目線を移して、応花は言う。


「うり兄はたぶん、そんなこと1ミリも考えてないよ。自分がプロになるべき人間なのかなんて関係なく、ただ純粋に自分の心を熱く集中させてくれる強者と戦いたいだけだよ。それこそ、兄々みたいな強者とね。」


応花の言葉に“はは”と笑うと、純は「ひねくれた男には似合わないほど、真っ直ぐ純粋な想いだな。」と言う。



予選開始から2時間ほどで、全選手が10G投げ終わる。


猛進の結果は、ギリギリ16位であった。


「いっや~ぁ、危なかったね~ぇ。」


ランキング表を見上げながら、猛進が明るい声で言う。


そんな猛進の頭を純が強く叩く。


「なにすんだ、この野郎!!」


頭を抑えながら猛進は純に怒鳴る。


「うっさい。調子が良かったのは1G目だけ。残り9Gは見てるこっちがハラハラする投球ばっか。オレのかっこいいセリフを台無しにする気か。」


訳の分からない純の文句に、猛進は「はぁ?」と首を傾げる。


「まぁまぁ。本戦に勝ち上がったんだから、よしとしようよ。

それに、うり兄の性格上、対戦相手のいない予選の形式じゃ、あまり集中力がわかないだろうしね。」


そう応花が兄をなだめる。


「そのと~り。さすが、オレの義理の妹的存在。よく分かってるねぇ。」


そう応花を褒めながら、猛進は応花の頭をなでる。


「仲のいい義理兄妹きょうだいですな。」


楽しそうにしている猛進と応花を見て、純は不満そうに呟く。



ー2階・廊下ー


ランキング表を見上げる、左目を前髪で隠した銀髪男子にりんが声をかける。


「まさか、お前もこの大会に出とるとはなぁ。」


銀髪男子は燐の方へ目線を向ける。


遠山とおやま……燐か。」


自分の名前を呼ぶ銀髪男子に、燐は微笑みを見せる。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。今回はここまでです。

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それでは、また次回お会いしましょう。

またね~。

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