第13話 ほっとしてるよ

~公式大会の基本ルール~

最大人数400人が10G投げた合計スコアのトップ16人のみが本戦に上がれる。本戦からは対戦方式となり、1対1の戦いとなる。決勝戦までは1G勝負だが、決勝戦のみ2G先取となる。

この公式戦ルールは、アマチュアもプロも同じである。



「おばさ~ん。うりにぃちゃんと起きてます~?!」


猛進もうしんの家の玄関で応花おうかが大きな声で叫ぶ。


「起きてるよ。うるせぇな。」


リビングの扉を開けて、猛進自身がだるそうな声で答える。


「よっ。体調のほうはどうだ?

緊張してるか?」


応花の後ろに立つじゅんが軽い口調で尋ねる。


「なんだ。お前も来たのか?」


そう尋ねる猛進に、純は「オレのプロ初の公式戦は卒業式前の3月5日だからな。

今月は暇なんだよ。」と答えた後、軽く微笑んで言葉を続ける。


「それに、お前の公式戦デビュー、親友でライバルのオレが見逃すわけにはいかないだろ?」


相変わらず恥ずかしいセリフを堂々と言う親友から目線を逸らして、猛進は答える。


「さよけ。だがまぁ、残念ながらまだ緊張の“き”の字も出てねぇよ。」


「うり兄が緊張するって言ったら、決勝戦ぐらいかな?」


そうニコニコとした笑顔で応花が言う。


そんな応花を見ながら、猛進は「さぁな。相手次第じゃねぇか?」とそっけない声で答える。



三人は無人タクシーに乗って、会場である“森崎もりさきボウリング場”を目指す。


地下町から地上へ上がる坂道をタクシーはどんどんと進んでいき、坂を上りきると、猛進たちの目に“本物の太陽”の温かい光があたる。


眩しそうに目を細める猛進を見て、純が声をかける。


「地上の太陽の光を浴びるなんて、久しぶりなんじゃないか?」


純の問いかけに、猛進は軽く窓を開けて答える。


「そうだな。中学の修学旅行以来かな。」


「半年以上ぶりか。これからは、いっぱい拝めるだろうねぇ。」


楽しそうに微笑む純に返事を返さず、猛進はポケットからシガレットケースを取り出すと、ネオシガレットを1本取り出し、先端をライターの火であぶる。


先端が白桃色に光りだすと、ピーチソーダ味の水素を吸って、先ほど開けた窓の外に向かって白桃色の水素を吐き出す。


相変わらずのひねくれた態度を見せる猛進を見て、純と応花の兄妹きょうだいは顔を見合わせて微笑み合う。



「着いたよ。今日の決戦の場、森崎ボウリング場!!今回の大会の参加人数は321人と、少し多めって感じかな?」


そう応花は、隣に立つ純の顔を見上げながら聞く。


「あぁ。300人越えたら多いほうだよ。」


そう答える純の横を通って、猛進は一人先にボウリング場内へ入ろうとする。


その足を止めて純たちの方へ振り返ると、猛進は自信満々な声で言う。


「人数なんて関係ねぇよ。

結局勝つのはオレなんだから。」


何ひとつおくすることのない親友の姿に微笑みをこぼすと、純は猛進の横を通ってボウリング場内へ入り、ひと言声をかける。


「かっこつけんのはいいけど、ネオシガレット切ってから室内入れよ。」


純の言葉に少し恥ずかしそうにしながら、猛進はくわえていたネオシガレットのスイッチを切る。


そんな猛進の姿を笑いながら、応花もボウリング場内へと入っていく。


猛進たち三人が受付を終えて会場に足を踏み入れると、集まっていたお客さんや選手たちの視線が一気に三人に向けられる。


──いや、正しくはに向けられる。


「おい、あれ。今年の関東プロ試験大会で1位プロ入りした夢近ゆめちか純じゃね?」


そう言った会話がお客さんや選手の中からザワザワと聞こえる。


(なんか、変に目立つなぁ。こいつのせいで。)


そう思いながら、猛進は純に不機嫌な目を向ける。


そんな猛進の背後から、聞き覚えのある西がかかる。


「なんや、プロ様がこんなアマチュア大会になんの用や?お前、出られへんやろ?チヤホヤされにでも来たんか?」


猛進たち三人の目線は、その関西弁の金髪男子に向く。


「おぉ、遠山とおやま。お前も出るのか?この大会。」


そう友好的な声で尋ねる純に、顔を近づけてりんは苛立った声を出す。


「なんや?ワイが出たらあかんのかい?」


「いやいや、そんなことねぇよ。

むしろ、ありがたいよ。」


純の言葉の意味が分からず、燐は「はぁ?」と聞き返す。


そんな燐の背後から、猛進が話に割って入る。


「そうだな。先日の借りを早くも返せそうだ。」


その声に燐は振り返ると、燐の瞳に猛進の姿が映る。


「はは~ぁん。なるほど。この白桃髪の応援に来た言うわけかい。

先日の借りねぇ。悪いけど、今回は最初から全開でやらせてもらうで。

この男の前で負けるなんちゅう、みっともない姿見せられへんからな。」


そう言いながら、燐は自分の後ろにいる純を親指でさす。


「いいねぇ。そうこなくっちゃ。

こっちも燃えられる戦いができそうで、ほっとしてるよ。」


そう猛進は自信に満ちた笑みを浮かべる。


そんな猛進たちから少し離れた場所で、猛進たちを見つめる一人の男がいた。


その男は、左目を前髪で隠した銀色の髪をした少年だった。


今大会の台風の目は、猛進、燐──そして、この少年のである。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。今回はここまでです。

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それでは、また次回お会いしましょう。

またね~。

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