第12話 楽しみでしょ?

「ただいま~。」


家に帰ってきたじゅんを、応花おうかが出迎える。


「おかえり。どうだった?」


そう尋ねる応花に、純は靴をぬぎながら「ん?」と聞き返す。


「うりにぃを公式戦に出させる話よ。

ちゃんと話してくれたんでしょ?」


「あぁ、そのことか。安心しろ。

上手くいったよ。」


そう答えると、純は昼間、学校の屋上で猛進もうしんと交わした約束の話をする。


「えぇ?! それって要は、試合に1回も負けずに優勝したら、来月からは公式大会に出なくていいってことでしょ?!

アマチュアの大会なんだから、うり兄の実力だとやりかねないわよ?!」


純から話を聞いた応花は叫ぶ。


そんな妹に、純はなだめるような声で言う。


「まぁ落ち着けよ。1回出たらあいつは、もう1回出たくなるって。

ボウリングは一人でも楽しめるスポーツだけど、結局、誰かとやるのが1番楽しいんだから。」


兄の言葉に、応花は「そうなるかな?」と心配そうに首を傾げる。


「なるよ。7年間、あいつと戦ってきたオレが言うんだから間違いないって。

兄を信じろ。妹よ。」


そう自信満々に言うと、純はリビングの方へ歩き出す。


よく分からない自信に満ちた兄の背中を、応花は不安が残る目で見つめる。


そんな応花の前で、純は足を止めると振り返る。


「それに、もしかしたら、猛進に1勝ぐらいできる相手がいるかもしれないしな。

それこそ、遠山とおやまみたいに、あいつの心を熱く集中させるやつがな。」


そう言葉を残すと、純はリビングの扉の奥に消える。


「つまりは、運と他人任せってことね。」


一人残された応花は、呆れた声で呟く。



それから数日後。

猛進は出来上がったマイボールたちを受け取りに、夢近ゆめちかボウリング用品店に来ていた。


「確か、デザインはお前がするって言ってたよな?」


そう猛進が、目の前でニコニコと笑顔を見せている応花に尋ねる。


「うん。可愛いでしょ?」


自信満々に言う応花に、1つため息をこぼすと猛進は言葉を返す。


「可愛いかどうかは知らんが、なんでボールにもユニフォームにもシューズにも、“うり坊”の絵が描かれてるんだよ。」


そう尋ねる猛進に、応花は少しむっとした表情で言い返す。


「描いてるんじゃない。想いと一緒に刻んでるのよ!!」


顔を近づけてそう言う応花に、猛進は冷めた目をしたまま言う。


「そんなのどっちでもいいよ。

オレはなんでうり坊なんだって聞いてんの。これじゃまるで、オレがうり坊大好き人間みたいじゃん。」


「え? だって、ボウラーとしてのうり兄のイメージ動物は、うり坊でしょ?」


「勝手に決めんな!!」


少し興奮気味に叫ぶ猛進の両肩に手を置きながら、落ち着いた声で応花は言葉をかける。


「今さらだよ、うり兄。

いいじゃない。超速ストレートボールにピッタリの動物なんだから。」


「だったら、せめてイノシシにしろよなぁ。背が低いからって勝手にうり坊にされちゃ困るよ。」


「だから今さらだって、うり兄。

それに、デザインと性能は関係ないから。ほら、そのユニフォームとシューズ履いて、マイボール投げてみなよ。

性能の良さに驚くよ。」


そう言いながら、応花はユニフォームとシューズを猛進に持たせて、試着室に押しやる。



試着室から出てきた猛進は、全身を白桃色に染めていた。

ユニフォームの背中と左胸、ズボンの左ポケット、シューズの横側に可愛らしいうり坊が刻まれている。


「着心地はどう?」


そう応花は尋ねる。


「うん。悪くない。むしろいい。」


そう少し驚いた声で言いながら、猛進はユニフォームとシューズを見渡す。


「じゃ、それで投げてみようか。」


そう言うと、応花は壁に取り付けられたデータ実体化器を操作して、店の内装を作り替える。


作り出されたレーンのアプローチに、猛進は白桃色のマイボールを手にして入る。


ボールの指穴の上には、小さなうり坊の顔が刻まれている。


その顔を1度見つめたあとに、猛進は目の前に並ぶ10本の白いピンに目線を向ける。


しっかりと集中して狙いを定めると、猛進はいつものテンポで助走をつけ、ファウルラインぎりぎりで足を止める。


いつも以上にしっかりとブレーキがかかり、猛進は驚きながらも左腕を大きく上げる。


身体中の力すべてを左手のボールに流し込むと、力を解放するように放つ。


放たれたボールは一切のふらつきなく、真っ直ぐと1番ピン正面を貫く。


10本すべてのピンが倒れるのを見つめながら、猛進は笑みをこぼす。


「すげぇな。何もかも投げやすくてびっくりしたよ。

今までは、ボールもユニフォームもシューズも全然気にしてなかったけど、この3つを変えるだけで、ここまで投げやすくなるとは思わなかったよ。」


そう驚きを素直に話す猛進を、応花は微笑みながら見つめる。


「楽しみでしょ?」


応花がそう言うと、猛進は「え?」と言いながら目線を応花に向ける。


「公式大会。」


応花の言葉に笑みを見せると、猛進は「あぁ。そうだな。」と答える。


そして、いよいよ猛進の公式戦デビューが始まる。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。今回はここまでです。

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それでは、また次回お会いしましょう。

またね~。

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