第11話 決勝戦だよ

学校の屋上でプカプカとネオシガレットを吸っている猛進もうしんに、じゅんが声をかける。


「よっ。相変わらず、そんな甘ったるいものをよくプカプカ吸ってられるな。」


純の声に猛進は目線を向けると、寝転がっていた体勢から起き上がる。


「うっせぇよ。」


そう言いながら、猛進は純とは逆方向に白桃色の水素を吐き出す。


そんな猛進の横に腰を落とすと、純は話を始める。


応花おうかから聞いたぞ?」


「なにを?」


「お前、アマチュアの公式大会、出るの嫌がったんだって?」


純の言葉に、猛進はばつの悪そうな笑顔を作る。


その笑顔に、純は軽い微笑みをみせると言葉を続ける。


「お前の気持ちも分からんでもないよ。

お前が思ってる通り、公式大会と言っても、全員が全員、力のある奴らばかりじゃない。

でもな、まれにいるんだよ。“本者ほんもの”になりうる奴が。

だってよく考えてみろよ。今のプロたちも、プロになる前はアマチュアの大会に出てたんだぞ?

つまりは、あの大会には落ちてるんだよ、本者ほんものになれる宝石たちがさ。」


純の言葉に、猛進は仰向けに寝転がると、

「理屈はよく分かるよ。でも、燃えねぇもんは燃えねぇんだよなぁ。」

と青い空を見上げながら呟く。


そんな猛進に、純は“まったく”と言いたげな微笑みをこぼすと、1つ提案をする。


「だったら、オレと1つ、ゲームをしないか?」


「ゲーム?」


そう聞き返しながら、猛進は起き上がる。


「もし公式戦で、お前が1回も負けずに優勝できればお前の勝ち。

勝てば、来年のプロ試験大会までどう過ごそうが、オレも文句は言わねぇし、応花にも文句は言わせねぇよ。

ただし、1回でも負けたら、毎月1回は必ず公式大会に出ること。

どうだ? このゲーム、乗るか?」


純の提案に、猛進の冷めきっていた心がほんの少し熱をおびる。


「いいぜ。それぐらいの暇つぶしは、受けてやるよ。」


猛進の返事を聞いて、純は満足そうに微笑むと右手を軽く掲げる。


「っんじゃぁ、男同士の硬い約束ってことで。」


そう言う純の右手に、猛進は軽く自分の左手を当てて、硬い約束を結ぶ。


「ん? なんだ? そのリストバンド。」


そう純の右手につけられたリストバンドを見て、猛進が尋ねる。


「あぁ、これか。昨夜ゆうべ、応花からもらったんだ。プロ入りおめでとうのプレゼントだって。応花の手づくりだぜ?」


「ふ~ん。」


そう言いながら、猛進はリストバンドを見つめる。


「ストライクマークは分かるけど、その上のクローバーにはなんか意味があんのか?」


「やっぱそこ気になる?」


嬉しそうにしている純を、猛進は訳が分からんと言った表情で見つめる。


「3つの葉は、オレとお前──そして応花を意味してるらしいぞ。

それから、クローバーの花言葉が“約束”らしい。

オレとお前がプロの1番大きな舞台で戦う約束。それが叶うようにだって。

あいつ、言ってたぜ? この約束は、オレとお前だけじゃなくて、応花との約束でもあるってな。」


純の言葉に、猛進は少し恥ずかしそうにしながらも、ひねくれた声で尋ねる。


「そもそも、プロの1番大きな舞台ってどこだよ?」


そう聞かれ、純はニコ〜っと笑みをみせる。


「そんなの決まってんだろ?

毎年12月に行われるプロボウリング大会の1番の目玉、“日本王者決定戦”だよ。

そこの男子新人部門の決勝戦。そこがオレたちの約束の場所だ。」


自信満々にそう答える親友に、猛進は大きく1つため息を吐き出す。


「日本王者決定戦の男子新人部門までは分かるけど、決勝戦ってのは組み合わせの運次第になんねぇか?

もしかしたら、初戦で当たることだってあるだろ?」


猛進のもっともな言葉を、純は力強い声で否定する。


「いや、決勝戦だよ。」


「だから……」


「オレとお前の最高の試合場所あそびばしょは決勝戦以外にあり得ねぇよ。

神様もそこんとこはちゃんと分かってるさ。だから、オレたちが考えるのは、ただ勝ち上がることだけだよ。」


純の根拠のない自信に、猛進は「さいで。」としか返すことができなかった。


そんな猛進の目の前で立ち上がると、純は言葉を続ける。


「とにかく、さっきのオレとのゲームの約束、忘れるなよ。

このリストバンドの約束クローバーに硬く誓ったんだからな。」


そう言い残すと、純は校舎の中へと入っていく。


純が消えていった扉を見つめながら、猛進は「分かりましたよ。」と一人、返事を返す。


すると、急に扉が開いて純が顔を出す。


「そうだ。このリストバンド、お前がプロ入りした時もプレゼントするって、応花言ってたぞ。楽しみにしてろよ。」


ニコニコした表情でそう言い終えると、純はまた扉の奥へと消えていく。


一人残された猛進は青い空を見上げると、「分かりましたよ。」と再度、呟く。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。今回はここまでです。

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それでは、また次回お会いしましょう。

またね~。

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