第8話 功績だろ?
去年の夏の全国大会準決勝と同じだ。
あと1つ勝てば決勝──そんな緊張感と相手の調子のいい投球を見て、昇はどんどんとフォームが崩れていった。
結果、準決勝で負け、その敗北を引きずったまま3位決定戦でも負けた。
あの日ほど、自分のメンタルの弱さを悔いたことはなかった。
あの時の自分を壊したかった。
許せない自分を──殺したかった。
だから、この男に挑んだのだ。
今、ボウリング界で話題の天才ルーキーを倒して、あの時の敗北を乗り越えたかったのだ。
「……それなのに……これなのか?」
昇は悔しさを表に出した目でスコアボードを睨む。
第6フレームまで終わって、二人のトータルスコアは昇:86点、純:157点と圧倒的に純がリードしている。
少しの間、スコアボードを睨んでいた昇は目線を純に向ける。
純はただ無言で腕を組み、真っ直ぐ昇を見つめている。
「思った以上に勝負にならなかったなぁ。」
そう、2人の戦いを野次馬群衆の中から見ている
「第1フレームの
猛進の隣に立っている
「プライドの高いキャラは、メンタルが弱いってのは
そう言いながら猛進は、やっとボールを構え始めた昇の背中を見つめる。
(なんだ?あの目は。ボクのことを今日まで知らなかった男が、なんでああも真っ直ぐとした目でボクを見られる。
第2フレームからのボクの投球を見て、なんで呆れた目をしない。
あいつらのような目で……なぜボクを見ないんだ……)
昇の心の中に、全国大会の準決勝と3位決定戦で戦った2人の男子の顔が蘇る。
その2人の顔を消すように、昇は大きく息を吐き出す。
「なめんなよ。天才ルーキー。」
メガネの奥にある2つの水色の瞳が強く燃える。
「……完璧なフォームだ。」
昇の投球を見て猛進は呟く。
完璧なフォームで放たれたボールは綺麗にポケットに入ると、10本すべてのピンを倒す。
「よし!!」
昇の力の入った声が体育館に響く。
アプローチを出る昇に、純が拍手を贈る。
「さすが、全国4位。ここにきて、気持ちを持ち直すとはな。」
「なんだ、ボクのこと知ってたのか?」
「いや、正直、この戦いが始まるまでは忘れてたよ。お前の投球を見て思い出したんだよ。校舎に垂らされた垂れ幕のこと。」
「ふん。1位プロ入りの君からしたら、全国4位なんて石ころみたいなもんだろ?」
そうすねたように言う昇の横を通りながら、純は真面目な声で言う。
「バーカ。1位プロ入りだろうが、全国4位だろうが、どっちも立派な自分の力で掴み取った功績だろ? 胸を張れよ、自分の功績に。」
そう言いながらアプローチに入る純の背中を、昇は驚いた顔をしながら振り返る。
その背中は、昇の目にはとても大きく見えた。
*
純と昇の戦いが終わり、体育館に集まっていた生徒たちがゾロゾロと体育館を出ていく。
「第7フレームからは結構よかったんだけどね。」
そう猛進に話しかけながら、李下はスコアボードを見上げる。
トータルスコア──昇:184点、純:251点。勝者:純。
「あぁ、そうだな。」
猛進もスコアボードを見上げながら答える。
「今回は潔く負けを認めるよ。」
そう言いながら、昇は純に手を差し出す。
「今回は?」
純がそう尋ねると、昇は微笑みを見せて答える。
「来年、ボクも君と同じ舞台に立ってみせる。今日のリベンジはプロの世界で挑ませてもらうよ。」
自信に満ちた目でそう言う昇の手を取ると、純は笑顔を見せて言う。
「そうか。だったら、試験会場はしっかり選んだほうがいいぞ。」
「え?」
「来年のプロ試験大会には、イノシシが出るみたいだから。」
純の訳の分からない言葉に、昇は首を傾げる。
*
李下と昇の二人と別れて、猛進と純は肩を並べて廊下を歩いていた。
すると、急に思い出したように純が口を開く。
「そうだ、猛進。学校終わったら、
「あん?なんで?」
猛進がそう聞き返すと、純はニカ〜と笑みを見せて答える。
「お前、プロ試験大会出るなら、マイボールとか色々と必要だろ? 母さんと父さんが準備してくれるってよ。うちの商品は最高だぜぇ。」
嬉しそうに微笑む親友の顔を見ながら、猛進はいつものように冷めた声で「りょ〜かい。」と答える。
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