第7話 100倍上だよ
体育館には、想像以上の生徒たちが集まっていた。
その大勢の生徒たちに囲まれて、
そんな2人を野次馬の群衆の中から見つめる
「なんだか、面白いことが始まったわね。」
その声に猛進が目線を向けると、1人の女子生徒が立っていた。
この女子生徒の名前は“
「なんだ。戸賀山も見に来たのか?」
そう尋ねる猛進の横に立つと、李下は軽く微笑んで答える。
「学校中の掲示板にあのポスター貼られてたからね。あそこまでやられると、さすがに気になるわ。」
「はは。くだらねぇ。あとで先生にどやされても知らねぇぞ、あのおかっぱ野郎。」
そう言いながら猛進は昇を見つめる。
「青山君、プライド高そうだもんなぁ。」
「なんだお前、あいつのこと知ってんのか?」
「うん。何度か同じ授業受けたことあってね。」
この時代では、学校の授業はすべて、自分の受けたい授業を好きに受けることができる時代だ。
言ってしまえば、すべての学校が大学みたいなものである。
「へぇ、そうなんだな。 まぁでも、会って数分のオレでも、プライドが高いことは分かるけどな。」
「ふふ。とくに自分が1番好きなボウリングに対しては──ね。」
「そういえば、あいつボウリング部のエースとかポスターに書いてたけど、実力はどうなんだ?」
そう聞かれて李下は、呆れた様子で大きく息を吐き出す。
「去年の夏休み終わりから、校舎の屋上から垂れてる垂れ幕見てないの?」
「垂れ幕?……あぁ、何枚か垂れてたなぁ。」
「そのうちの1つに、“ボウリング部エース・青山昇、全国大会4位”ってのがあったでしょ?」
そう言われて猛進は思い出そうとするが、思い出せない。
そんな猛進の様子に、李下は呆れた声で「あったのよ!!」と言う。
「よくお前、そんなこと覚えてるな。 ボウリングに興味ないだろ?」
「ないわよ。でも、あんだけデカデカとあったら、記憶に残るもんでしょ?」
「そういうもんかねぇ。」
「……まぁでも。話題性で言ったら、
李下の言葉に猛進は「え?」と言いながら目線を向ける。
「プロの世界の話だもん。中学生の全国大会とは訳が違うでしょ? ネットニュースやテレビニュースなんかにもなってたしね。話題性の大きさでいえば、夢近君の方が上だよ。 きっと、青山君はそれが許せなかったんだと思う。自分の身近で、大好きなボウリングのことで、自分よりも話題になってる夢近君のことが。」
「……やっぱ……くだらねぇよ。」
そう言いながら、猛進は目線を昇に向ける。
「先行はお前に譲ってやるよ。」
そう純が余裕のある態度で昇に言う。
「その余裕、いつまで続くかな。」
そう苛立った目を純に向けながら、昇はアプローチに入る。
ボールリターンから、水色のマイボールを手に取ると、右手に構える。
メガネの奥にある瞳が、しっかりとレーンに並ぶ10本のピンに狙いを定める。
そして、体を崩さず綺麗なフォームでボールを放つ。
放たれたボールは綺麗にポケットに入り、10本すべてのピンを倒す。
「マニュアルのような綺麗なフォームとボールだな。さすが全国4位だ。実力はそこそこあるみたいだな。」
昇の投球を見て、猛進は褒める。
そんな猛進に李下が尋ねる。
「夢近君よりも?」
李下の言葉に、猛進は軽く微笑むと自信のある声で答える。
「バーカ。純の方が100倍上だよ。」
アプローチを出る昇に、純は敬意を表して拍手を贈る。
その拍手に昇は不快感を感じると、苛立った声で言う。
「随分と余裕だな。」
「別に余裕ってわけじゃないよ。 ボウリングっていうスポーツは、いかに自分ってものを崩さずにいられるかってスポーツだろ? だから、オレは相手が誰であれ、自分でいるだけさ。」
そう答えると、純はアプローチに入る。
蛇の絵が描かれた黒色のボールを右手に構えながら、純は集中力を高めて狙いを定める。
ボールリターンぎりぎりの左端から真っ直ぐレーンの左端に助走をつけると、右斜め上めがけてボールを放つ。
放たれたボールは蛇のようにしなやかで大きな弧を描き、ポケットへとするっと入っていく。
──カランカランと耳心地のいい音を響かせながら、10本のピンはすべて倒れていく。
純の放ったボールに、周りの生徒たちが声を上げて盛り上がる。
たった1球で観客の心を掴んだ純の姿を見て、昇の心に強い
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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。今回はここまでです。
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それでは、また次回お会いしましょう。
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