第5話 行ってやろうじゃねぇか

覚醒モードになった猛進もうしんは、第8、9、10フレームをストライクで締めくくる。


対する燐は、第8フレームが19点のスペアだったが、続く第9フレームで見事ストライクを取る。



「最終フレームか。」


スコアボードを見上げながら燐は呟くと、猛進の方に振り返って笑みを見せる。


「このままやっても、ワイがストライク取って終わりや。それやと少しつまらんやろ? やから、ワイも1つえぇもん見せたるわ。」


そう言うと、燐はボールリターンに取り付けられたデータ実体化器の下に自分のスマホをセットし、スマホを操作して“マイボール”を復元する。


この時代ではマイボールをいちいち持ち歩くことはしない。

データ化してスマホのアプリで管理し、データ実体化器で物体に復元するのだ。


復元された、“海賊のフック手”が描かれた金ぴかのマイボールを、燐は右手に構える。


しっかりと狙いを定め、助走をつけてボールを放つ。


放たれたボールはレーンの真ん中を真っすぐ走る。


「これって、第1フレームで投げたボール?」


応花おうかが驚いた声で言う。


レーンの真ん中を真っすぐ走っていたボールが、1番ピン手前で急に右へ曲がる。


「ここまでは第1フレームと同じ。」


真剣な眼差しで見つめる猛進の目の前で、右に曲がったボールは1秒も経たないうちに今度は左に曲がり、ポケットへ吸い込まれる。


綺麗にポケットへ入ったボールは、10本のピンすべてを倒す。


ボールが通った軌道には、海賊のフック手が軌跡きせきとして浮かび上がる。


「どや。お前の超速ストレートにも負けへん、おもろい球やろ?」


そう燐が猛進に目線を向けて微笑む。


燐の笑みを、猛進は少し崩れた笑みで返す。


「まぁ、何はともあれ、けっこう楽しめたで。ほな、さいなら。」


マイボールをデータに戻し、ボールリターンからスマホを取り出すと、燐は猛進の肩を軽く叩いてその場を去っていく。


去っていく燐に目を向けず、猛進はただ真っすぐスコアボードを見上げていた。


トータルスコア──猛進:225点、燐:234点。勝者:燐。


「……負けた。」


そう小さく呟く猛進に、応花が「うりにぃ」と小さく声をかける。


心配する応花の気持ちとは裏腹に、猛進は大きく笑い出す。


「これが、プロを本気で目指してるやつの実力か。これがじゅんが言ってた、“プロの世界”の手前にある世界……いいねぇ。悪くない。応花。」


急に名前を呼ばれて驚いた様子で、応花は「え?」と返事をする。


「興味が出てきたよ。プロの世界ってやつに。」


そう微笑みながら言う猛進に、応花はパーッと明るい表情を見せる。


「じゃ、うり兄も?」


「あぁ。行ってやろうじゃねぇか。

純が待つ、プロの世界ってやつにな。」


そう答える猛進の目は、熱く燃えていた。



その日の夜、夢近ゆめちか家。


「──ってことがあったのよ!!」


嬉しそうに昼間の出来事を応花は兄である純に話す。


「へぇ、猛進のやつ、あいつと戦ったのか。そりゃぁ火がつくわな。」


そう微笑みながら言うと、純はブラックコーヒーをひとくち口に運ぶ。


「いや~ぁ、楽しみだなぁ。

プロの世界での兄々にぃにぃとうり兄の戦い。」


ニコニコと笑顔を見せて嬉しそうにしている妹に、純は目線を向けて軽く微笑む。


「お前より、オレの方が楽しみにしてるよ。オレ以外の奴と戦ったことのないあいつは、まだ経験値で言うとレベル1ってとこだ。

でも、これからはどんどんいろんな奴と戦う。

その戦いで得る経験値で、あいつのレベルは跳ね上がるぜ。

そんなあいつと試合できあそべるんだ。ワクワクしないわけないよなぁ。」


純はニヤニヤが止まらないほどワクワクしていた。


「レベルが跳ね上がるのは、うり兄だけじゃないでしょ?

兄々だって、これからアマチュア時代とはレベルの違う本者プロたちと戦っていくんだから。」


「あぁ、もちろん。猛進以外の誰が相手でも、負ける気はしてねぇよ。」


「さすが、今年の新人で1番話題に上がってる男は違うねぇ。

何しろ本戦決勝で、2ゲーム連続パーフェクトで1位プロ入りだもんねぇ。

この話題性に負けない活躍、期待してるよ。」


「おう。任せとけ!!」


そう自信満々に純は答えた。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。今回はここまでです。

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それでは、また次回お会いしましょう。

またね~。

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