第3話 いいぜ

「自分、おもろいボール投げるなぁ。

ワイと1ゲーム、勝負しようや。」


いきなり馴れ馴れしく肩に手を回してきた関西弁の金髪男子に、猛進もうしんは不機嫌な目を向ける。


「なんだよいきなり。てか、お前誰だよ。」


そう苛立った声で言いながら、猛進は金髪男子の手を払いのける。


「あぁ~!! “遠山とおやまりん”!!」


いきなり叫びだした応花おうかに、猛進と金髪男子の二人は目線を向ける。


「なんや姉ちゃん、ワイのこと知ってるんか?」


嬉しそうにそう言いながら、燐は応花に近づく。


「なんだ、応花。こいつのこと知ってんのか?」


燐を応花から遠ざけながら、猛進は尋ねる。


「うん。昨日のプロ試験大会本戦の1回戦で、兄々にぃにぃと戦った人よ。」


応花の言葉に、燐が「兄々?」と反応を見せると言葉を続ける。


「姉ちゃん、お前、“蛇王じゃおう”の妹かいな。」


燐の言葉に、今度は猛進が反応する。


「蛇王?」


首を傾げている猛進に、応花が教える。


「プロの世界では、1勝あげると“異名”が与えられるの。だから、プロ試験大会で優勝した兄々にも異名が与えられたわけ。」


「その異名が蛇王なのか?」


「そう。兄々が投げるボールを見てつけられたみたいだよ。」


「あぁ、あの蛇みたいなカーブボールね。」


そう猛進は納得する。


「なんや、自分も随分と蛇王のこと、詳しいみたいやな。どういう関係や。」


そう燐に聞かれて「ただの幼なじみだよ。」と答えようとした猛進の言葉を遮って、応花が答える。


「何を隠そう、この男こそ、兄々の1番のライバルである、本間ほんま猛進なのだ!!」


応花の紹介に、猛進は心の中で(余計なこと言いやがって。)と思う。


「ほぉ、ほな、お前が蛇王の言っとった“来年プロ入りする男”かいな。」


燐が大きく1歩、猛進に近づいて言う。


そんな燐から視線を逸らして、猛進は答える。


「オレはそんなつもりはねぇよ。」


「せやけど、あの蛇王が認めるほどの実力なんやろ? さっきの超速ストレート。

おもろいもん持ってるもんなぁ。

ますます、あんたに興味出てきたわ。

やろうやぁ、1ゲーム。

後悔はさせへんでぇ。」


燐の放つ殺気にも似た闘争心が、猛進の身体を血のように流れる。


その闘争心を感じ取った猛進の身体は震える。


{それに、プロの世界には、オレとの試合あそびにも負けないほど、熱く楽しい試合あそびがあるんだぜ? それこそ、お前の心を熱く集中させる試合あそびがな。}


じゅんの言葉を思い出して、猛進は笑みを浮かべる。


「いいぜ。やろうか。」



~カレントスコアリングシステム~

従来のシステムとは違って、各フレームごとに点数が分かる計算方法。

ストライクなら30点。スペアなら1投目に倒した本数+10点。たとえば、最初に9本倒して2投目に残りの1本を倒してスペアだった場合、そのフレームの点数は19点となる。なお、10フレーム目も同様の計算方法で行うため、ストライクやスペアを出しても追加の投球はない。



【第1フレーム・先行:猛進】


ボールリターンから白桃はくとう色のハウスボールを取る猛進を見て、燐が文句を叫ぶ。


「ちょっと待てや!!」


燐の声に、猛進と応花は目線を向ける。


なぜ止められたのか訳が分からないという顔をしている猛進に、燐は近づく。


「ワイをなめとんのか自分。

ハウスボールなんか使わんと、マイボール使えや!!」


燐の抗議こうぎに、猛進は困った顔で頭をかく。


「マイボール使えって言われても、オレ、マイボール持ってないんだけど。」


猛進の言葉に、燐は固まる。


「お……お前、マイボールも持ってないくせに、来年プロ試験大会に出ようとしとんのか?」


燐の疑問に、猛進は大きく息を吐き出す。


「だ~か~ら~。オレはプロになる気はないんだって。純のやつが勝手に言ってるだけだよ。分かったら、もう投げてもいいか?」


苛立った声でそう言われて、燐は「そうかい。悪かったの。」と言って猛進のそばから離れる。


出鼻をくじかれた猛進は、気持ちを落ち着かせるために1度、大きく深呼吸をする。


気持ちを整えて目の前の10本のピンに集中すると、しっかりと狙いを定める。


定め終えると、猛進はテンポのいい助走をつけて、ファウルラインぎりぎりで足を止めると、左腕を大きく上げる。


そして、全身の力をボールに流し込み、その力を吐き出すようにボールを放つ。


放たれたボールは猛スピードで真っ直ぐ1番ピン正面を貫く。


──カランカランと音を鳴らしながらピンが倒れていく。


だが、4番ピンと7番ピンの2本が残る。


「ほんま、ごっついストレートやな。

普通、あのスピードであなに綺麗なストレートは投げられへんやろ。」


猛進の超速ストレートを見て、燐が褒める。


「まだまだ感心するのは早いですよ。」


隣に座っている応花の言葉に、燐は「え?」と聞き返す。


応花は目線を燐に向けると、微笑んで答える。


「戦ってたら、分かります。」


燐と応花がそんな会話をしているうちに、猛進は残った2本を倒してスペアを取る。


「うりにぃ、ナイスカバー。」


アプローチを出てきた猛進に、応花が声をかける。


「あぁ。さ~ぁてと。プロ試験大会本戦出場者の実力、拝見させてもらいますか。」


そう言いながら、猛進はアプローチに入る燐の背中を見つめる。


猛進と応花の両方の視線を背中に浴びながら燐は、ボールリターンに取り付けられた“データ実体化じったいか”を操作すると、金色の を作り出す。


そのハウスボールを右手に持つと猛進の方へ振り返る。


「ワイだけマイボール使うんは、フェアやないやろ?」


「負けた時の言い訳に使うなよ。」


「そないかっこ悪いこと、関西の男がするわけないやろ。まぁ、見とれって。

本者ほんもの”の実力ってやつ見せたるさかい。」


そう自信満々に燐はボールを構える。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。今回はここまでです。

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それでは、また次回お会いしましょう。

またね~。

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