第十七話:禁呪の解除と、自浄の光

地下水脈の中心部。


一葉いちようが発動させた禁呪の逆術式によって、水脈を硬化させていた青白い光が激しく明滅し始めた。


「急げ、一葉!水脈が崩壊する!」碧斗あおとは警戒しながら叫ぶ。


「わかっている!」一葉は苦痛に顔を歪ませた。禁呪の解除は、彼自身の命を削る行為であり、その度に右手の紋様がさらに黒く焼き付く。


ドォンッ!


硬化していた地下水脈が、ついに崩壊した。水流を封じていた禁呪が解かれた瞬間、水脈は凄まじい勢いで流れを取り戻した。


しかし、同時に、辰砂しんしゃが汚染していた黒い穢れが、濃縮された瘴気となって美咲たちめがけて噴き出した。穢れは一瞬にして地下空間を満たし、くのかいノ会の面々、そして迅と禊の身体能力を奪おうとする。


「来たぞ!」じんが美咲を庇うように一歩前に出る。


「大丈夫よ、迅!」


美咲は、この瞬間を待っていた。体内に満たした『自浄じじょう』の清浄な生命力を、一気に解放した。


清浄化せいじょうか、展開!」


美咲の装束全体が、まばゆい純粋な白の光を放った。美咲の体から放出された清浄なエネルギーは、津波のように地下空間全体へと広がっていく。


美咲の清浄化の光は、噴き出した穢れの瘴気を瞬時に中和し、周囲の空気を澄み切ったものに変えていく。そして、水脈内部に染み込んでいた辰砂の穢れも、轟音と共に蒸発し始めた。


「なっ…これが、水龍の清浄化の力…!」碧斗は、体内の瘴気が浄化され、力が満ちていく感覚に驚愕した。彼の手首の禁呪の紋様も、一時的にだが、黒い色を失い、本来の解毒の力を取り戻していた。


一葉も、その清浄な光に包まれ、体が軽くなるのを感じた。彼は、この力が、自分たちが追い求めてきた『真の清浄』であることを、肌で理解した。


「いい気になっているようだな、災厄の器」


清浄化が成功したと思った瞬間、地下空間の天井を突き破り、辰砂が再び降臨した。彼の体からは、先ほどよりもさらに濃い黒い瘴気が噴き出している。


「貴様らの小細工など、すべて計算済みだ。水脈を封じたのは、この濃縮された穢れを一箇所に集めるためだ!」


辰砂は、巨大な穢れの塊を美咲めがけて叩きつけた。それは、街全体を覆うほどの汚染物質を圧縮した、純粋な悪意の塊だった。


美咲は、清浄化によって力を使い果たし、息を切らしていた。


「くっ…清浄化の力は、連続では使えない…!」


彼女の体内の清浄な生命力は、すでに底をつきかけていた。


「終わりだ、水龍!」


穢れの塊が美咲に迫る。このままでは、美咲は清浄な力ごと穢れに飲み込まれてしまう。


「美咲!」一葉は、反射的に美咲の前に飛び出した。


「させるか!」迅が木刀を構え、穢れの塊に突撃するが、人間の力では巨大な塊を止めることはできない。


その時、碧斗が、浄化されて一時的に力を取り戻した禁呪の力を、迷いなく一葉と美咲の間に叩きつけた。


解毒げどく、展開!」


碧斗の解毒の力は、辰砂の穢れを完全に消し去ることはできないが、その勢いを一瞬だけ減衰させることに成功した。


「今だ、龍神様!残った清浄な力を、奴の核に!」迅が叫ぶ。


美咲は、残されたわずかな生命力を絞り出し、体内に残る最後の一滴の清浄な力を、辰砂の核である心臓の紋様めがけて放った。


パァン!


清浄な力は、辰砂の胸元に直撃した。辰砂は、初めて明確な苦痛の叫びを上げ、地下空間から姿を消した。

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『水脈の輪廻(みゃくのりんね) - 龍を討つ、短命の刃 -』 トモさん @tomos456

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