裏切りの魔術師
うつせみ
序章
第1話
五百年前。
悪魔の女が人間の男と恋に落ち、一人の子を成した。
そしてそれが、悲劇の始まりだった――
× × ×
魔術師の歴史は、迫害の歴史だ。
頭部に
比喩ではなく文字通り、悪魔の血を引いていたことも大きい。
魔術師は
多くの同胞たちが
そんな彼らの元に希望が舞い降りたのは、一年前のことだった。
とある魔術師の冒険家が、苦難に満ちた航海の果てに、無人の「新大陸」を発見したのだ。
そこは奇しくも彼らの祖、「
聖地に移住し、
そういった機運が高まったのは、当然の成り行きだったと言える。
古い言語で「魔術師の土地」を意味する「マゴニア」と名付けられたその新大陸に、魔術師たちは大挙して、入植を開始した。
これでもう、自分たちの生活が脅かされることはない。
誰もがそう思っていた。
だが、今、目の前――夕焼けのような忌々しい色に
それくらいは、男も理解していた。
しかし、だからといって、よりにもよって――当代最強と名高い魔術師が、いきなり害獣駆除の邪魔を始めるなんて、流石に想定外だ!
巨大な黒い角を頭の左右に一本ずつ生やした若い男が、先端に碧い宝玉の付いた鉄製の杖を手に、呪文を詠唱する。
「『
男はまず、自身の頭上に大量の水を生成すると、次いでそれを急速に冷却して、巨大な氷塊へと変えた。
一見すると簡単なようだが、実際は非常に高度な魔術だ。
本来、攻撃のための魔術――
だが、「
とはいえ、反転属性は魔力を通常の数倍は消費する上に、その制御も難しい。
だいたい、魔術師が同時に扱うことができるのは、二属性までが限界のはず。
つまり、裏切り者のあの男――アヴェン・インブスルックは、自らの作り出した氷塊に、このまま押し潰される運命なのだ。
常識的に考えれば、そうなるはずである。
だが、最強とは、常識が通じないからこそ最強なのだ。
アヴェンは跳躍すると、手にした杖を振るい、氷解を粉々に砕き――木製の杖を用いる魔術師が大半なのに、重たい鉄製の杖をわざわざ持ち歩いているのは、こうした使い道があるからだろう――そのまま、三つ目の呪文を詠唱した。
「
転瞬、氷の礫が風に乗り、雹のように魔術師たちを襲う。
「
男はどうにか、炎の盾を生成し、アヴェンの攻撃を防御することに成功したが、「反転属性込みの三属性同時使用」という規格外の芸当に圧倒されてしまったのか、仲間たちはまともに反応できず、氷をまともに食らってしまった。
「……くそっ、化け物が! 『
吐き捨てて、男は「火球を生成し、それを風に乗せて標的まで飛ばす」という、もっとも基本的な魔術師の攻撃方法で、アヴェンに反撃する。
「……ふん!」
だが、渾身の魔力を込めていたにも関わらず、その一撃は魔術ですらない杖の一振りによって、あえなくかき消されてしまった。
「嘘だろ……?」
この男は魔術だけではなく、体術においても最強だというのか……!?
九人いた仲間たちは皆、息も絶え絶えだ。
氷を頭部に受けて気を失った者、腕や足を折られ、痛みで身動きが取れない者……。
全員、かろうじて生きてはいるようだが、放置していれば
一方、アヴェンはかすり傷ひとつ負っていない。
この人数の魔術師を相手にして無傷とは、尋常ではない強さだが――それよりも恐ろしいのは、その突拍子もない行動だ。
長年、非魔術師たちによる厳しい抑圧に晒されてきたにも関わらず、魔術師たちが生き残ってこられたのは、個々の実力が高かったからだけではない。
民族全体を家族とするような、鉄の結束があったからこそだ。
この男はそれに、ヒビを入れようというのか。
己の実力を過信した、青二才が。
害獣に対する、安っぽい同情心などを理由に――
「……失せろ」
「っ……」
アヴェンに鋭い眼光で
言ってやりたいことは山ほどあるが、今は一刻も早く
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裏切りの魔術師 うつせみ @semi_sora_
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