第5話 親友の恋人の懇願
精液の粘着質な感触と、独特の匂いが部屋を満たしている。菜月は、その熱い液体を顔と胸に浴びたまま、目を閉じ、深い充足感に浸っていた。彼女の顔に付着した白い精液は、彼女が佑樹の性的トラウマを、献身的な奉仕によって受け止め、「特別な共犯者」となったことの、甘く、排他的な証だった。その匂いは、ホテルのアロマと混じり合い、もはや彼らにとって罪の香りとして定着し始めていた。
佑樹は、深い疲労と、屈辱的な行為によって得られた歪んだ自己肯定感に支配されていた。彼は、菜月の献身的な奉仕と、文香の熱狂的な視線によって、「自分は欠陥のある男ではない」という、最も切実な肯定を得たのだ。
その歪な静寂を破ったのは、ソファの隅で全ての光景を目撃していた、白石文香だった。彼女の浴衣の裾が、精液で汚れたベッドの絨毯をかすめる微かな衣擦れの音が、佑樹と菜月の間に、新たな緊張をもたらす。
「菜月さん、ずるい、ずるすぎます」
文香は、声を震わせながら、ゆっくりと立ち上がった。彼女の顔は、羞恥心と罪悪感によって青ざめているが、黒縁眼鏡の奥の瞳は、強烈な嫉妬と、抑えきれない渇望の熱に満ちていた。彼女は、菜月が佑樹の肉体を独占し、性的トラウマの解決者という地位を築いたことに、激しい羨望を覚えている。文香の全身が、長年の自己抑圧によって軋んでいるように見えた。
「ずるいって、何がだよ、文香」
菜月は、精液を拭いもせず、挑戦的な笑みを浮かべた。彼女は、自分が佑樹との間に築いた、この肉体を介した排他的な優位性を、親友に奪われることを、本能的に拒否しようとしていた。
「佑樹君の、理性を焼くほどの快感。私は、その快感を、この目で見てしまった。菜月さんが、あんなに苦しそうに、でも、あんなに気持ち良さそうに、受け止めているのを」
文香は、自分の言葉を制御できないかのように、言葉を紡いだ。彼女の理性は、既に限界を超えていた。彼女の思考回路は、「彰太の愛」という社会的理想と、「佑樹の肉体」という本能的な渇望との間で、完全に引き裂かれている。その葛藤の激しさが、彼女の顔の筋肉を硬直させていた。
「私は、彰太君の彼女だけど、満たされていないの。彰太君は、優しくて、誠実で、私を大切にしてくれる。でも、交際相手としては扱ってくれても、女の子として扱ってくれないの。女の子にも欲求があるというのにスキンシップもとってくれない。彼は清い愛で拒否するの」
文香は、自らの性的な渇望を、親友の恋人を裏切るという罪悪感を上回る切実な痛みとして告白した。彼女の豊満な胸部が、荒い息遣いと共に激しく上下する。その身体は、長年の自己抑圧によって、既に限界を迎えていた。彼女は、佑樹の肉体が持つ「規格外の力」が、彰太の潔癖な愛では決して満たされない、彼女自身の深い心の空洞を埋めてくれると、本能的に確信していた。
そして、彼女の視線が、再びベッドサイドのテーブルの上に置かれた、ホテルの備品のコンドームへと向けられた。文香は、震える手で、そのコンドームの包装を掴んだ。その透明なビニールが、彼女の指先で小さく音を立てる。その音は、優等生であった文香の理性が、最終的に決壊したことを告げる音だった。
「佑樹君、お願い。私にも、あなたの快感を分けてほしいの。私を、この罪悪感を上回るほどの快感で、満たしてほしいの」
文香は、佑樹の足元に跪いた。その時、彼女の浴衣の前合わせが微かに緩み、白い、弾力のある豊満な胸部が、荒い息遣いと共に露わになった。彼女は、文学少女という仮面を、自ら進んで脱ぎ捨て、本能的な欲望の権化として、佑樹にセックスを懇願したのだ。
彼女の懇願は、拒否すれば友情を破壊するという脅迫にも似た、悲痛な覚悟に満ちていた。佑樹は、親友の恋人からの、あまりにも背徳的な懇願に、一瞬、息を呑んだ。この懇願を受け入れた瞬間、彼は二人の幼馴染の肉体、そして親友の恋人という、最も禁断の領域を支配することになる。
その時、精液で汚れた菜月が、勢いよくベッドから身を起こした。彼女の瞳は、嫉妬心によって、激しく燃え上がっている。彼女は、自分の顔に付着した精液を、まるで勲章のように見せつけるように、文香に向かって顔を突き出した。
「ふざけんな、文香! あんたのその清い優等生の顔が、ムカつくんだよ! 彰太の彼女って立場、最後まで守っとけよ!」
菜月は、文香が掴んだコンドームの包装を、力づくで奪い取ろうとした。二人の幼馴染は、一つの肉塊を巡って、嫉妬と独占欲を剥き出しにした、醜悪なまでの女の戦いを始めたのだ。
「先は、うちからね! あんたは、二番目だよ! 佑樹は、私のトラウマを解決してくれたんだから、次は、私が満たされる番だよ!」
菜月は、コンドームを掴み、佑樹の腰にしがみついた。彼女は、肉体を介した絆の排他的な優位性を主張した。この独占欲こそが、彼女の愛の表現であり、文香への対抗意識だった。
文香は、菜月にコンドームを奪い取られた屈辱に、涙を滲ませた。しかし、彼女の肉体の渇望は、屈辱を上回る。
「ずるい! でも、いい。私が二番目でもいい。佑樹君、あなたの肉体だけが、私を満たしてくれる。だから、私にも、私にも、快感をちょうだい!」
文香は、佑樹の股間にしがみつき、菜月と同時に、一つの肉塊を求めた。二人の女性の体温と、荒い息遣いが、佑樹の肉体を両側から包み込む。彼の股間の熱は、再び限界まで高まっていた。
佑樹は、二人の幼馴染が、自らの肉体を巡って争っているという、倒錯的な全能感に満たされた。彼の屈辱的な秘密が、彼女たちの間に友情を破壊するほどの激しい競争を生み出している。彼は、この状況に、抗いがたい快感を覚えていた。
彼は、精液が未だ付着したままの右手で、菜月と文香の顔を、それぞれ掴んだ。その指先が、二人の頬に食い込む。
「分かった。この夜は、俺の好きにさせろ。俺にとって初恋の相手は、菜月であり、文香だった。ずっと一緒にいたくて、男女間の問題でこじれさせたくなくて、幼馴染以上の関係になるのを避けていた。お前たちの友情の安寧は、俺の肉体によって、今日、完全に境界線を越える。俺は、菜月のことも、文香のことも好きだ。任せて欲しい」
「やっと、素直に本音を認めたようね……でも……」と、菜月は佑樹の態度の変化に不安そうにした。調子に乗りすぎたと思ったのである。
佑樹の低い声は、この密室における絶対的な支配者としての宣言だった。彼の言葉を受け、菜月と文香の瞳には、罪悪感と恐怖、そして甘美な快感への期待が、同時に宿った。文香は、菜月との順番の屈辱を受け入れ、親友の恋人を裏切るという罪と、理性を焼く快感の歪んだ交換を成立させたのだ。菜月は、優位性を主張したものの、文香がこの共犯関係に加わることを許してしまったという、友情への複雑な感情と、ライバルとの共存という新たなスリルを感じていた。三人の歪んだ共犯関係が、ここに成立した。
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