第6話 文香との結合(前戯):裏切りの甘さ


 佑樹の低い声による支配の宣言が、熱と精液の匂いが充満する密室に響き渡った。菜月と文香、二人の幼馴染は、その絶対的な命令に抗うことなく、静かに屈服した。文香は、菜月というライバルの直後に、親友の恋人を裏切るという二重の罪を背負うことになったが、彼女の顔から涙は消え、代わりに肉体の渇望が、決意の光として瞳に宿っていた。


 佑樹は、まず、精液で汚れた自分の手と、菜月の顔を、ホテルの備え付けのタオルで拭き取った。その間、菜月は文香を睨みつけ、文香は佑樹の肉体から目を離さなかった。この短い清算の時間は、三人の間に成立した歪んだ共犯関係を、改めて互いに確認するための儀式のようだった。


「菜月、お前は、そこで見ていろ」


 佑樹は、菜月に命令した。それは、彼女の独占欲を刺激し、文香への嫉妬を最大限に引き出すための、支配者としての最初の試みだった。菜月は、不満そうに奥歯を噛み締めたが、最終的にはベッドの隅に座り直し、両腕を抱え込んだ。その瞳には、裏切りの現場を目撃する屈辱と、次の快感への期待が混じり合っている。


 佑樹は、文香へと向き直った。文香はまだ浴衣姿だ。彼女は、黒縁眼鏡を外そうとはしなかった。それは、彼女の優等生という最後の仮面であり、知的な観察者として、この行為のすべてを記憶に刻みつけようという、文学少女としての本能だったのかもしれない。


「文香、彰太には、絶対にこのことは言えない。お前も、そうだろう?」


 佑樹は、あえて親友の名を出して、彼女の罪悪感を刺激した。しかし、文香は、予想に反して、静かに首を横に振った。


「もちろんです。これは、誰にも知られてはいけない、私たちだけの秘密。そして、私と佑樹君の肉体の繋がりは、彰太君の清い愛では、決して得られないものだから」


 文香は、その言葉を、決意の固さを持って言い放った。彼女の心は、既に「裏切り」という沼に深く足を踏み入れ、罪悪感よりも快感の追求を優先する方向に、不可逆的に傾いていた。


「それなら、今の自分が何をやりたいのか見つめて、感じて、受け入れるんだ。迷いがあれば楽しめないし、後で後悔することになる。俺は、もう何度か途中で拒否されて、女の子に逃げられることを体験している。だから、俺のことは心配するな。文香が途中で心を変えたとしても、文香の幼馴染としてその意思を受け入れる。俺に心を開いてくれるか?」


 佑樹は、文香を見つめ、文香はゆっくりと頷いた。


 佑樹は、文香の浴衣の帯に手をかけた。彼の指先が触れた瞬間、文香の身体は、まるで氷のように冷たかった。長時間の緊張と、罪の意識によるものだろう。しかし、その冷たさこそが、彼女の内に秘められた熱量の大きさを物語っていた。


 佑樹が浴衣の帯を解き、浴衣の襟元をゆっくりと開いていく。絹のような滑らかな布地が、文香の白い肌の上を滑り落ちる摩擦音が、部屋の静寂の中で小さく響いた。浴衣がはだけ、その下に隠されていた文香の豊満な胸が露わになった。文香は、菜月の小柄でスポーティーな体型とは対照的に、柔らかな曲線美と、ブラウスの下に隠されていた豊かな量感(Dカップ)を持っていた。彼女の肌は、ホテルの赤い照明の下で、陶器のような滑らかさと上品な光沢を放っている。


「っ……」


 佑樹は、一瞬息を呑んだ。その優等生の仮面の下に、これほどまでに肉欲を刺激する豊満な肉体が隠されていたという事実に、彼は背徳的な快感を覚えた。この肉体が、今、親友である彰太の潔癖な愛を拒否し、自分に身を委ねようとしている。その事実が、佑樹の支配欲を深く満たした。


 彼は、文香の黒縁眼鏡の奥の瞳を見つめた。文香の表情は、羞恥心と、肉体を晒すことへの興奮とが、複雑に混じり合っている。彼女の乳首は、恐怖と期待からか、既に硬く、微かに尖っていた。


 佑樹は、その豊満な胸部へと、掌を滑らせた。彼の掌が、文香の重力に逆らおうとする柔らかさと、温かい肌の感触を捉えた瞬間、文香の口から、乾いた喘ぎが漏れた。


「んっ、佑樹、君……」


 その喘ぎは、快感と罪悪感の混じった、理性の崩壊を告げる音だった。佑樹は、文香の胸を、揉みしだくのではなく、その温かい肌の感触を確かめるように、ゆっくりと撫でた。彼の指先が、彼女の乳首の硬さを優しくなぞる。彼の愛撫は、文香の身体の奥深く、長年抑圧されてきた情動の琴線に触れる。


「お前の身体は、正直だな。彰太の清い愛が、お前をどれほど不満にさせていたか、この肌が教えてくれている。信じて欲しい。俺だって10年以上、文香のことが好きだったんだ。今は文香を俺のものにする。どんな関係になったとしても、俺から文香を手放すつもりはない。この先も文香が求める限り、俺はお前のパートナーだ。そして、新しい扉を開かせる。」


 佑樹の言葉は、優しさと、支配的な独占欲、そして長年の真実の告白を含んでいた。文香は、その言葉の重みに、全身を大きく震わせた。彼女の抑圧された情動は、単なる快感の要求ではなく、「佑樹に愛されていた」という事実によって、一気に決壊した。彼女の目から、再び一筋の涙が流れ落ちた。それは、裏切りの罪悪感ではなく、「清い愛」では満たされなかった自分自身の渇望が、初恋の相手からの「独占宣言」という形で肯定されたことによる、魂の解放の涙だった。


 彼女は、佑樹の首に腕を回し、その体に全体重を預けた。彼女の浴衣の裾が乱れ、白い太腿が露わになる。彼女の肌からは、女性の成熟した体臭と、石鹸の清涼感が混じり合った、甘く重い匂いが放たれていた。


「満たして、ください、佑樹君。この身体が、あなたが望むままの肉体的対象になるのなら、私は、すべての罪を受け入れます」


 文香の懇願は、自己犠牲ではなく、快感を求める欲望の肯定だった。


 ベッドの隅で、菜月は、その光景を激しい嫉妬の視線で追っていた。彼女の指先が、精液の乾いた感触を無意識になぞる。菜月は、佑樹との肉体を介した絆の優位性が、文香の豊満な肉体と、抑えきれない情動によって、今まさに揺らいでいることを悟った。彼女の口元が、次の奪い合いへの決意を固めるように、強く結ばれた。


 佑樹は、文香の胸をさらに深く愛撫した。文香の瞳は、快感によって充血し、既に理性の光は失われている。文香は、この瞬間、佑樹を「秘密の肉体的対象」として、自らの人生に深く迎え入れたのだ。次の行為が、この歪んだ三角関係を、さらに強固な共犯関係へと、決定的に突き進めることを、三人は本能的に理解していた。


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