「世界で一番美味しいチョコ」

高校入学すぐ—。


僕が入学した高校はまるでごくせんのような高校だった。

授業中は携帯をいじってない方が浮いている。

まともに授業を受けている方が悪いとまでされているような高校だった。


そんな高校であまり友達もできなかったが僕を最初から気になっているのかと

思ってしまうぐらいの子が現れた。

無口で仏頂面。誰に対しても冷たく誰にも好かれてない

誰とも友達じゃない。先生にすら冷たく当たるその彼女が

僕にだけ友達のように接してきていたのだ。


名前は氏原花鈴

花鈴はみんなに恐れられており誰も近寄り難い存在だった。


でも仲の良かった僕は知っていた。

ただ真面目に授業を受けたいだけの女の子で

別に話せば冷たいこともないし、むしろ普通の子より優しい。


花鈴はほぼ毎日小包のチョコレートをくれるのだ。


「これ何?」

「毎日放課後寄ってるゲーセンで落とすんだ」


彼女は毎日メダルではなくチョコのジャックポットを

達成しているのではないだろうかというぐらいに

毎日同じ金色の小包のチョコを20個ほどくれる。


気づけばうちの家の冷蔵庫には花鈴のくれたチョコだけのコーナーが

できちゃうほどには毎日花鈴は僕にチョコをくれたのだ。


帰りに一緒にそのナムコのゲーセンに寄ったこともあるが

まるでその姿は「ナムコの番人」だった。


それからも僕にだけは常に優しく彼女でもあり母親でもあるような

態度を僕によくとっていたのだ。


本当は自転車通学なのに僕と帰りたいという理由だけで

2駅分ぐらい一緒に歩いたり、「爪が長い」と急に言われ

爪を切ってくれたりした日もあった。


僕がちょっと嫌なことをクラスメイトなどに言われると

あんたが標的に切り替わるぞと教えてあげたくなるぐらいの勢いで

その男子に向かっていったこともあった。


そんなある日のこと。

バカがつくほど真面目な花鈴が僕を連れ出して授業をサボろうと言ってきた。

初めて2人でカラオケに行きそこそこ流行りの歌を歌ったりした。


そして終盤、花鈴は僕に


「もうさ私と付き合わん?」と突拍子もなく言ったのだ。


戸惑う僕を宥めるかのように

「嘘だわ、ばーか」といつもの冷たい顔でそうあしらった。



その言葉の本心は結局卒業しても知ることはできなかった。

でもその日以来いい感じなシチュエーションになることもなかったし

あの小さな金の小包のチョコをもらうことも無くなった。


それから今まで一度も連絡は取ってないし

花鈴が今どこで何をしているのかすら知らない。

あの時すぐに返事をしていれば花鈴は僕と付き合ってくれたのだろうか。


もしいつか僕が男らしくなってかっこいい男になれたなら

今度は僕の方からたくさんのチョコを持って迎えに行こうと思う。


「ナムコの番人」こと氏原花鈴

僕はあなたのことが大好きでした。


















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