紛失届

紛失届の紙には書く事柄が複数あった。まずはこの書類を提出する日付だ。今日は令和7年の10月26日の日曜日だ。届け日に10月26日と書く。


今回は初めから書いてあるため書かなくて済んだが、今令和の何年にあたるのか、それを書くのに苦労している。


これは平成の時もそうだった。覚えられないのだ。


平成の時は平成12が2000年と覚えた。そこから今の年を足して平成何年を導いていた。


令和では今の西暦から18を引けば出てくるらしい。18なんて中途半端な数字覚えられるかと思ったが、選挙に投票できる年齢と覚えればいいとどこかの番組でいっていた。


日本は18歳で投票する権利が与えられる。投票は18歳に引き下がったが酒とタバコは昔と変わらずに20歳のままだ。


次に落とし主の情報を書く。俺の氏名は相田武だ。住所と電話番号と生年月日も記入する。俺は昭和生まれ。昭和、平成、令和と元号を跨いで生きている。


まぁ37歳以上がこれに当てはまるから別に珍しくない。プロ野球の世界では珍しくなった。


昭和生まれの日本人のプロ野球選手は各球団に1人か2人しかいないのではないだろうか、いや、確か阪神にはいなかったはずだ。


次に紛失した日時を書く。ここは曖昧にしか書くことが出来ない。妻の話から考えると出かける時は持っていたから昨日の午後5時といったところだろうか。一応4時半にしておくか。いや、4時半から5時と書いておこう。


次に紛失した場所を書く。ここは書けない。どこで無くしたか分からないからだ。


行った居酒屋に置いてきたかもしれないし帰りの電車に忘れたのかもしれない。トイレで盗まれてのかもしれない。もしかしたら行きの電車に忘れた可能性だってある。俺は潔く不明と書いた。


次に紛失したものとその特徴について書く。紛失したものはショルダーカバンだ。色は紺。


大きさはどれくらいだろうか。A4のクリアファイルくらいだろうか。それとももう少し小さかったかな。500のペットボトルは縦でも横でも入る大きさのものだ。よし、大きさはそうやって書いておこう。500のペットボトルが縦にも横にも入る大きさと。


次に紛失の経緯について。これは無くなっていたことを思い出したとでも書けばいいのか。


それとも細かくだから泥酔から書いた方がいいよな。俺は昨日泥酔して記憶がなく、次の日妻に言われて初めて無くなったことに気がついたと正直に書いた。


ざっと間違いがないか確認した後に俺は借りたボールペンと紙をお巡りさんに提出した。 


「書き終わりましたか。では身分証明書を見せて下さい」


俺は財布から運転免許証を出してお巡りさんに見せた。どこかの市長の卒業証書のようにチラ見せはせずに堂々と見せた。


「確認が取れましたのでこちらは受理します。また詳しいことが分かり次第こちらに書かれた電話番号に連絡します」


「分かりました。お願いします」


俺はそう言い交番を後にした。

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