獅子舞駅前交番を訪ねて

獅子舞駅前交番に着くと俺は扉を開けて中に入った。中にお巡りさんが1人いることは扉を見て分かった。


もしもパトロールや何かの事件で不在の時は扉に紙が貼ってある。その紙が貼っていなかったので誰かいるだろうと思った。まぁその紙が貼っていてもいなくても透明なガラス越しから見ることが出来るのだけど。


「どうされましたか」


俺が入ってきたことを確認したお巡りさんは尋ねてきた。


「昨日というか今日の深夜にこちらの交番の方の世話になったらしくて。迷惑をかけてしまったのでそれの謝罪に」 


こんなこと本当は言いたくなかった。恥ずかしいし惨めだ。妻から言われて迷惑をかけたことは知ったが記憶がないためらしいという不確定な言い方しか出来ないことを嫌だった。


「はぁ、そうなんですか。私は日勤で夜勤ではないので分かりかねますが。夜勤のものに伝えておきますね」


そうか、そうだよな。警察官も夜勤と日勤に分かれているんだよな。てことは迷惑をかけたお巡りさんは今いないってことか。 


「すいません。お願いします。要件はそれだけなので失礼します」


俺はお巡りさんに背を向けながら扉を開けて外に出ようとした。その時に


「あのー、もしかして記憶がないんですか。先ほどらしいと言っていたので」 


とお巡りさんに呼び止められた。俺はお巡りさんの方に向き直した。


「そうなんですよ。先ほど妻に詳細を聞きまして。どうやらそこの駅中のトイレで横になっているところをこちらの交番のお巡りさんに保護されたらしくてですね。いやー、酒の飲み過ぎで泥酔してしまいまして。この歳にもなって恥ずかしい話です」


「そーですか。夜勤ではお兄さんみたいな人よくいるんですよ。飲み過ぎて酔っ払って自分ではどうすることもできなくなって寝てしまう方が。でも保護された後に誰かご家族の方が迎えにきてご自宅まで帰ったってことですよね。良かったですね」


良かったと言っていいのだろうか。記憶がないのは良くないことだと思う。


しかし妻とお巡りさんの助けのおかげで無事に帰宅できた。これに関してはまぁ良かったと言っていいのだろう。


「はい。良かったです」


「貴重品とか何か無くなってしまったものはありますか。後で泥酔者が尋ねてくることがよくあるので。


あれが無くなった。これが無くなった。もしくは壊れているとか。もし今後そのようなことがあればまた尋ねてきて下さい。解決まではいかないかもしれませんが」


確かに泥酔中の記憶はないから何か紛失していたとしても分からないな。後で妻に聞いてみるか。


何を持って出かけたのだろうか。スマホと財布はある。出かける時に妻にや渡されたから現に今手元にある。他に何か持って行ったってな。


「分かりました。すいません。ありがとうございます。では失礼します」


俺は獅子舞駅前交番を後にして自宅に戻った。

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