保護室

保護室は人1人が寝転ぶことが出来る簡易式のベットと椅子と机があるシンプルな部屋だった。


俺はパイプ椅子に座らされた。机を挟んで向かい側にあるパイプ椅子に俺と同じくらいか俺より少し年上と思われる警官が座った。


「お兄さん身元を証明できるものはありますか?もしもあるのなら出してください。ないのならばつ印をしてください」


ここは警察の保護室だ。今暴れたら即逮捕もしくは身柄確保といったところか。なぜ俺は獅子舞駅の駅中トイレで倒れていたのか。それが分かっていない。ここは素直に身元証明書を出そう。確かポケットに入れてたよな。


俺は上着のポケットを触った。何も入っていない。次にズボンの右ポケットを触った。何か固いものが入っている感触があった。次に左ポケットを触った。同じく何か固いものが入っている感触があった。


俺は左右のポケットの中に手を入れ固いものを取り出した。右ポケットからはスマホが、左ポケットからは見覚えのある財布が出てきた。俺は財布から免許証を取り出して警官にじっくり見せた。どこかの市長のようにチラ見せはしなかった。


「はい、拝見します」


警官は俺の手から免許証を取ると読み上げた。


「えー、相田武さん、47歳。住所はー、あー、この近くですね。写真を見る限りこの免許証はあなた本人のもので間違いなさそうですね」


警官は俺の免許証を読みながらメモを取っていた。そりゃそうだ。それは俺の免許証だ。他人のものではない。


もしも他人の免許証が入っていたらどうなっていたのだろうか。盗みの罪で逮捕になっていたのだろうか。


いや、勝手に入れられたという線もあるからすぐに逮捕というわけにはならないかもな。なぜなら俺はなぜトイレで眠っていたのか分かっていないのだから。事件性ありだから。


「家に奥様とか子供さんとかいらっしゃいますか。もしいるのならそちらのスマホからご家族につないで欲しいのですが。繋がり次第私が話しますので」


家に妻も子供もいるだろう。ただ寝ているかもしれないから電話をかけたとしても気づかないかもしれない。


先ほどここまで保護されている時に外を少し歩いたから分かる。外は暗かった。人もいなかったことからかなり遅い時間なのだろう。


俺はスマホのロックを解除して妻に電話した。充電は残っていた。もしも残っていなかったら警官は充電器を刺して起動されるまで充電するのだろう。


「おいおい、おえあ」


妻に電話越しに話しかけた後スマホを警官に取られた。それは一瞬の出来事だったため反応出来なかった。


「もしもし、遅い時間にすいません。私は獅子舞駅前交番勤務の田所です。そちら相田武さんの奥様でお間違いないでしょうか。ええー、旦那様がですね獅子舞駅の駅中トイレで倒れておりまして。


ええー、見た限りですね事件性はありません。自力で歩くことが出来ず呂律が回っていないことから相当のお酒を飲まれたのだろうと。ええー、すいませんが迎えにきてもらえないでしょうか。夜遅い時間にすいません。奥様と身元を証明できるものも持ってきてください。ええー、免許証で問題ないですので。ては失礼します」


警官は言い終わると勝手に通話を切った。


「奥様が迎えにきてくださるそうだから。もう少しここで待っていよう」


警官にスマホを返されながら言われた。俺はいう通りにした。


しばらくして妻が現れた。上着は羽織っているが下はいつも履いているパジャマだった。着替える時間がなかったのだろう。


「本当にうちの旦那がすいません」


妻は警官に謝った。


「一応なんですが、免許証を確認してもよろしいでしょうか」


妻は手に持っていた財布から免許証を取り出して警官に見せた。


「確認が取れましたので問題ありません。奥様には申し訳ないのですが必要書類がありまして、その記入をこちらの机で記入してもらってもよろしいですか」


分かりましたと妻は言った後で警官と交換して私の前のパイプ椅子に座った。渡された紙を書く。最後まで書き終えた妻は警官にその紙を渡した。


書き漏れがないか確認し終えた警官は私と妻をパトカーに乗せ自宅まで送ってくれた。私は妻と警官にベットまで運ばれて再び眠りについた。

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