第39話 闇市場の破壊とムスタファの戦場
陽菜が主導した決死の輸送作戦により、大量の医療品は無事に内陸の安全な集落へと運び込まれた。ラシードは軽傷を負ったものの、ムスタファ医師はすぐに臨時の野外病院を設置し、長期間治療を受けられなかった負傷者たちの処置に取り掛かった。
現場は依然として極度の医療格差に直面していた。ムスタファ医師は、陽菜の「叫び」に応えるように、限られた資源の中で最大限の命を救おうと奮闘していた。
「この抗生物質があれば助かる命が、どれだけ闇市場に流れていたことか…」
ムスタファ医師は、治療しながら怒りをにじませた。
陽菜は、医療品の封鎖という人為的な闇を根本から断ち切る必要性を痛感していた。
「東城さん、闇市場のネットワークを追跡してください。彼らの資金源を断たなければ、この悲しみの連鎖は止まらない」
東城隼人は、ナブア周辺で医療品が高値で取引されている闇市場の資金決済ルートを追跡した。彼は、闇市場の裏に、以前陽菜が追い詰めた紛争鉱物企業の残党が、偽の慈善団体名義のデジタルウォレットを使って、利益を洗浄していることを突き止めた。
陽菜の新たな戦略は、**「行動する勇気」と「情報戦」**の融合だった。
1: 闇市場の信用破壊
陽菜は、赤十字や信頼できる国連機関と連携し、ナブアに偽装した医療品の大量供給の噂を流した。これは、闇市場の在庫が高騰する前に、**「価格が暴落する」**という経済的な不安を煽るための情報戦だった。
2: デジタルウォレットの凍結
東城は、闇の勢力が使用するデジタルウォレットへの送金ルートが、特定の国際的な決済プラットフォームを経由していることを突き止めた。陽菜は、フリーの「世界倫理監査官」としての権威を使い、テロ資金供与の疑いで、そのプラットフォームに対しウォレットの緊急凍結を要請した。
東城の情報戦と陽菜の倫理的圧力は即座に効果を発揮した。闇市場の仲買人たちは、価格暴落と資金凍結のパニックに陥り、医療品を急いで手放し始めた。その結果、大量の医療品が、地域住民の元に適正な価格で、あるいは無償で流れ始めた。
**「命の値段」**を吊り上げていた闇のビジネスモデルは、陽菜の倫理的な行動と情報戦略によって、根本から破壊された。
しかし、この勝利は一時的なものだった。ナブア紛争地帯の根本的な貧困と教育格差が続く限り、闇は再び新たな形で生まれる。
陽菜は、ムスタファ医師の野外病院で、治療を終えた一人の少年に出会った。少年は、自分の命が救われたことよりも、学校が破壊され、**「もう二度と勉強できない」**と泣いていた。
陽菜は悟った。彼女の戦いの究極の目的は、命を救うだけでなく、少年が未来の夢を追いかけられる持続可能な希望の連鎖を創ることにある。
陽菜の次の**「叫び」は、ナブア紛争地帯の教育の再建**、そして**「貧困」**が生み出す暴力の連鎖を断ち切るための、長期的な開発支援に向けられていた。
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