第37話 闇の検問を超える光の輸送網


​陽菜の指示を受け、東城隼人はナブア紛争地帯への医療品の意図的な封鎖に使われている、第三国の裏ルートと資金の流れの追跡を開始した。東城が突き止めたのは、この封鎖が、医療品を極端な高値で闇市場に流し、その利益を武装勢力の戦費に充てるという、極めて非人道的なビジネスモデルに基づいていることだった。


​「星野顧問、封鎖の首謀者は、以前我々が追い詰めた紛争鉱物企業の残党と、彼らが資金提供している地域の軍閥です。彼らは、医療品を戦略的な兵器として利用しています」


東城は報告した。


​陽菜は、本部からの正規ルートが使えない中、彼女独自の「光の連鎖」を総動員した。


​ラシードとムスタファ医師の先行潜入


ラシードは、ムスタファ医師と共に、医師団を装い、小型で高価な必須医薬品(インスリン、抗生物質の点滴など)を隠し持ち、危険なナブア紛争地帯へ潜入した。ムスタファ医師の知識は、医療格差に苦しむ現場で即座に負傷者を治療する鍵となる。


​東城隼人による情報撹乱


東城は、封鎖の主犯である軍閥が使用している検問所の勤務シフト、賄賂の受領記録、そして輸送隊のルート情報をハッキングし、闇の勢力の内部に**「偽の情報」**を流し始めた。


​陽菜の「緊急人道回廊」構築


陽菜は、フリーの「世界倫理監査官」としての権威と、赤十字からの支援依頼という大義名分を使い、周辺の複数の小型独立国家と、協力的な海運会社を説得した。彼女は、**「中立海域」**を経由し、夜間に高速小型船で最低限必要な医療機器と食料を運び込む、**非公式の「緊急人道回廊」**を構築した。


​作戦決行の夜。


​ナブア紛争地帯の海岸線近くで、ラシードは、ムスタファ医師が治療を施すために必要な輸血用血液と大規模な野外手術キットを待っていた。武装勢力の検問所が海岸から数キロ内陸にあり、そこを突破することが最大の難関だった。


​その検問所では、東城が流した偽情報により、「別のルートで大規模な赤十字の輸送隊が接近している」というデマが広がり、武装兵士たちの注意が分散されていた。

​陽菜は、海岸から数マイル離れた船上で、衛星通信を握りしめていた。


​「ラシード、輸送船が目標地点に到達したわ。君たちの合図を待っている」


​ラシードは、検問所の注意が逸れた隙を見計らい、海岸へ向けて発煙筒を上げた。それは、**「行動する勇気」**を示す光だった。


​陽菜は、輸送船に積まれた物資を小型のボートに積み替えるよう指示すると同時に、東城に最後の指示を出した。


「東城さん、物資の引き渡しが完了した瞬間、この作戦の倫理的根拠を全世界に公開してください。闇の勢力の医療封鎖という犯罪行為を、白日の下に晒すわ」


​小型ボートは、夜の闇に紛れて海岸へ向かった。しかし、ボートが海岸に近づいた時、検問所の武装兵士たちが偽情報に気づき、海岸へ向けて一斉に発砲を開始した。


​「ホシノ、間に合わない!」


ラシードが叫ぶ。


​陽菜の緊急輸送作戦は、人命救助という目的と、闇の勢力の暴力という、最も困難な試練の瞬間に直面していた。

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