第36話 赤十字からのSOS
陽菜と東城隼人は、資源開発を巡る国際的な開発銀行と多国籍企業との会議の準備を進めていた。彼女の次の戦場は、**「環境と開発倫理」**という、長期的な構造の不正義だった。
その時、国連の緊急通信チャンネルを通じて、彼女のデバイスに、国際赤十字(ICRC)のトップから直接、暗号化されたメッセージが届いた。内容は、彼女が特別顧問として協力し、透明性の基準を確立した後の「グローバル・ハート」の枠組みを無視し、直接、陽菜個人に宛てられたものだった。
「星野顧問。東アフリカのナブア紛争地帯で、状況が急激に悪化しました。予想を上回る激しい戦闘により、民間人の負傷者が爆発的に増加しています。現地の医療施設は飽和状態。赤十字の支援物資が、武装勢力の検問と、第三国の裏ルートによる医療品の闇取引により、全く現場に届きません。これは、単なる横流しではなく、医療品の意図的な封鎖です」
報告書には、治療を受けられず、感染症や失血で命を落とす子どもの写真が添えられていた。それは、陽菜が過去に見た、**「防げたはずの死」**の連鎖が、さらに深刻な形で繰り返されている現実だった。
「グローバル・ハート」本部の正規ルートは、陽菜が確立した透明性の基準によって、逆に手続きの厳格化を余儀なくされ、この緊急事態には間に合わない。赤十字が頼れるのは、規則と権威に縛られない、陽菜の**「行動する勇気」と、東城が持つ「闇のルートを逆手に取る情報戦略」**だけだった。
「星野顧問。あなたの**『地平線モデル』**と、東城氏の緊急輸送ネットワークが必要です。今、この悲しみの連鎖を断ち切れるのは、あなただけだ」
陽菜は、資源開発の資料を閉じ、東城に顔を向けた。
「東城さん。戦場が変わったわ。『開発』の戦いは一旦保留です。目の前で命が消えている」
東城は、陽菜の表情を見て、彼女の決意を察した。
「承知しました。ナブア紛争地帯は、以前の場所よりも治安が悪く、検問が非常に厳しい。通常の輸送は不可能でしょう。現地では医療格差が極限に達しています」
陽菜は、ラシードにも連絡を取った。
「ラシード、ナブアは、君の地域の数倍危険な場所だ。しかし、そこにいる子どもたちが、私たちを必要としている」
ラシードからの返答は即座だった。
「ホシノ、我々の**『希望の連鎖』は、どこまでも繋がっている。俺と、ムスタファ医師、そして選抜された現地の信頼できる仲間たちが、君の「行動」**のために、ナブアへ向かう準備をする」
陽菜は、国際倫理監査官という地位を、即座に**「危機対応チームのリーダー」**へと切り替えた。
「東城さん、闇の勢力が医療品の封鎖に使っている、第三国の裏ルートと資金の流れを逆追跡してください。私たちは、命を救うための闇のルートを、今すぐ構築する。ラシード、ナブアで、悲しみに耐える子どもたちの顔を見てきて。それが、私たちの行動する勇気の原点となる」
陽菜の新たな戦いの課題は、**「規則の壁」を越えて、「医療品の封鎖」**という人為的な闇を打ち破り、紛争の悲しみの中で増え続ける負傷者を救うことだった。
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