第32話 故郷からの不協和音


​陽菜による東城隼人の過去の「光の戦略」は、国際会議で絶大な効果を発揮し、彼女の提唱する倫理的な支援モデルの採択はほぼ確実となった。陽菜は、世界の構造改革という大きな目標に向け、着実に前進していた。


​会議が最終局面を迎える中、陽菜の私用の暗号化デバイスに、故郷のNPOの旧友から緊急のメッセージが届いた。


​「陽菜。あなたに関する不穏な噂が流れている。あなたの両親の死に関する情報よ。彼らは、あなたの**『行動する勇気』**の原点を、徹底的に破壊しようとしている。すぐに確認して!」


​陽菜の心臓が強く脈打った。両親の死は、彼女にとって最も個人的な悲しみであり、常に胸の奥に封印していた過去だった。彼女の行動の源泉は、両親を亡くした経験と、世界の不公平に対する強い怒り、そして人を思う前向きな心にあった。その原点を破壊されれば、彼女の国際的な正当性は崩壊する。


​東城隼人は、陽菜の異変に気づき、すぐに状況を確認した。


​「星野顧問。これは、闇の勢力が雇った広報チームの最後の悪あがきです。彼らは、あなたの**『倫理的な信用』**という核を崩そうとしています。両親の死に関する噂は、真実と虚偽が入り混じった、極めて悪質なものです」


​陽菜は、この攻撃が今までのどの攻撃よりも深く、彼女の個人的な信念を揺さぶるものであることを悟った。ここで会議を離脱することは、これまでの全ての努力を水泡に帰すことを意味する。

​陽菜は決断した。彼女は会議室に残り、提言の採択を最優先することを選んだ。


​「東城さん。私は、会議室に残ります。しかし、あなたは故郷に戻って、この噂の背後にいる人物と、彼らが握っているとされる両親の死に関する情報を突き止めてください。この私的な闇を放置すれば、世界の光を遮ることになります」


​東城は、陽菜の重い決断を理解し、静かに頷いた。彼は、陽菜の**「行動する勇気」**を支えるため、静かに会議室を後にし、故郷へと向かった。


​陽菜の戦いは、国際舞台での構造改革と、故郷に隠された個人的な過去の秘密という、最も困難な二重戦線へと突入した。彼女の人を思う前向きな心は、今、試練の時を迎えていた。

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