第31話 闇を飲み込む光の戦略
陽菜は、国連会議の場で、東城隼人の過去が闇の勢力に狙われているという情報を公表することを決意した。
それは、彼らの反撃を無効化し、さらに
**「過去に過ちを犯した者でも、光のために行動できる」**
という、物語の核心的なテーマを世界に訴えかけるための、極めて大胆な戦略だった。
翌日の会議冒頭、陽菜は議題に入る前に発言を求めた。会議室は、前日の感情的な訴えの余韻と、ロビイストたちの緊迫した動きで異様な静けさに包まれていた。
「皆様。私の提言の正当性を巡り、私個人の過去、そして私の協力者の過去が、現在、組織的な攻撃に晒されています。闇の勢力は、私が規則を破った行為、そして私の主任補佐、東城隼人氏が過去に所属していた組織での職務を盾に、私たちを沈黙させようとしています」
ロビイストたちは、陽菜が自ら弱みを公表したことに驚き、色めき立った。彼らは、この告白を即座に利用しようと準備した。
陽菜は、東城に目を向け、彼に発言の機会を与えた。
東城隼人は、立ち上がると、会議室を見渡した。彼の顔には、かつて闇の構造の中で生きていた者の冷徹さではなく、それを乗り越えた人間の静かな決意が宿っていた。
「私は、長年にわたり、国際金融コンサルティングファームの上級役員として、合法的な手段を用いて、紛争鉱物取引企業や、支援物資を横流しする組織を顧客としてきました。私は、貧困と医療格差から利益を得る、闇の構造の一部でした」
会議室に衝撃が走った。誰もが、陽菜の協力者がそのような過去を持つとは予想していなかった。
「しかし、私が星野顧問の**『叫び』に触れ、彼女が現場で命懸けで守ろうとした子どもたちの姿を見た時、私は自分の過去の行動がどれほど非倫理的であったかを悟りました。私が今、彼女に提供している情報は、私自身の罪滅ぼし**であり、倫理的義務の履行です」
東城は、具体的なデータと、自身が過去に知り得た**「合法的な顔をした闇」**がどのように機能していたかの内部情報を会議に提供した。彼は、自らの過去を告白することで、闇の構造が、どれほど表の世界と深く結びついていたかを、動かぬ証拠で示したのだ。
陽菜は東城の隣に立ち、再び語り始めた。
「東城氏の過去は、私たちの弱点ではありません。それは、私たちが世界に訴えるメッセージの最も強力な証拠です。希望は、完璧な人間だけが運ぶものではありません。過ちを犯した者でも、そこから学び、行動する勇気を持てるという事実にこそ、世界の真の再生があります。闇の構造に一度でも関わった東城氏が、自らの過去をすべて公表してまで支援を求める子どもたちの未来。これこそが、私たちの提言に正当性を与えるものです」
陽菜は、闇の勢力の最大の武器だった「東城の過去」を、**「人を思う心」による「行動する勇気の勝利」**という光に変えたのだ。
この大胆な「光の戦略」により、闇の勢力のロビイストたちは反撃の手段を完全に失った。彼らが陽菜や東城を訴追しようとすれば、東城が提供した新たな情報によって、彼ら自身の不正がさらに明るみに出ることになるからだ。
陽菜の提言は、道義的、論理的、そして今や倫理的な勝利を収め、採択に向けて最終段階に入った。しかし、この勝利の影で、陽菜の前に、彼女の故郷から、彼女自身の**「過去の個人的な秘密」**を揺さぶる、新たな脅威が迫りつつあった。
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