第30話 忠誠の試練


​陽菜の**「悲しみの証言」**は、国連会議室の空気を完全に変えた。彼女の訴えは、国際社会に対し、規則の遵守よりも人命救助の倫理を優先すべきだという強いメッセージを刻み込んだ。提言は、多くの途上国や良識ある先進国の支持を得て、採択に向けて大きく前進し始めた。


​しかし、闇の勢力の抵抗は終わらない。陽菜の倫理的な主張が強いほど、彼らは陽菜の**協力者の「正当性」**を狙う必要があった。


​東城隼人は、会議の裏側で、陽菜への訴訟の動きを阻止するための法的な防御を固めていた。その時、彼の元に一本の極秘電話が入った。相手は、東城がかつて所属していた国際金融コンサルティングファームの、現幹部だった。


​「東城隼人。君が星野陽菜に提供しているデータは、我が社の顧客機密情報だ。君は、守秘義務違反と背任行為で、国際的な刑事告訴を受けることになる。君の持っている全てが、君が闇の構造の一部だった証拠として使われるだろう」


​幹部は、東城を再び**「闇」**の側に引きずり戻すことで、陽菜を孤立させようとしていた。彼らは知っていた。東城が刑事告訴されれば、彼の証言能力は失われ、陽菜の提言全体が「信用できない情報源」に基づいていると見なされかねない。


​東城は、一瞬顔色を変えたが、すぐに冷静を取り戻した。


「私は、不正と紛争をビジネスにする組織の倫理に反する行為に対し、告発者として行動している。守秘義務は、犯罪を隠蔽するための盾ではない」


​「倫理だと? 君の過去を、我々がすべて公表すれば、君の『倫理』は単なる偽善に見えるだろう。星野陽菜から手を引け。そうすれば、君への告訴は見送る。彼女は、君の過去の闇で孤立するだろう」


​東城は電話を切った後、すぐに陽菜に状況を報告した。


​「星野顧問、彼らは私を狙っています。私の過去の行動を公にすることで、あなたの提言を『汚れた資金と情報に基づいたもの』に見せかけ、あなたの行動の正当性を疑わせるつもりです」


東城は、陽菜への忠誠心と、自身の過去への罪悪感の間で葛藤していた。


​陽菜は、東城の顔を見つめた。彼女には、東城がもはや過去の闇の一部ではないことが分かっていた。彼の**「行動する勇気」**が、彼自身を闇から引き離したのだ。


​「東城さん。あなたの提供してくれたデータが、何千人もの命を救い、一つの組織を浄化し、世界の構造を変えようとしている。あなたの過去は、あなたの**『人を思う前向きな心』**が勝利した証拠です。私たちは逃げません」


​陽菜は、東城の過去の不正行為と、彼が提供した情報が組織の浄化に果たした役割を、率先して会議で公開することを決意した。


​「闇の勢力は、私たちを『完璧な聖人』でなければならないと要求しています。しかし、真の希望は、過去に過ちを犯した者でも、光のために行動できるという事実にこそある。私たちは、あなたの過去を隠さず、私たちの最大の武器として使います」


​陽菜の次なる「叫び」は、自身の正当性だけでなく、協力者の過去までもが、希望の連鎖の一部となることを、世界に示すものとなるだろう。

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