第26話 最後の逃亡ルートを断て


​陽菜は、被災地の仮設オフィスから、東城隼人とラシードへの指示を続けた。彼女は狙撃事件後、より厳重な警護の下に置かれていたが、その集中力は研ぎ澄まされていた。


​「東城さん、逃亡資金は特定できましたか?」


​東城隼人は国際的な送金システムを追跡していた。


「星野顧問、特定しました。彼らは、ヨーロッパの小さな国にある、実体のない『災害復興支援基金』という偽装口座に送金を試みています。資金はあと数時間で移動を完了するでしょう」


​「その資金移動を完了させてはいけない。それが彼らの最後の命綱です」


陽菜は即座に指示を出した。


「国際機関に働きかけ、資金の緊急凍結を要請してください。理由は、テロ資金としての利用が疑われることです。彼らの私への報復行為は、まさしくテロです」


​同時に、陽菜はラシードへ無線で指示を送った。


​「ラシード、闇の勢力の残党が潜伏している廃墟、そこが彼らの最後の集合場所ね?」


​「ああ、間違いない。我々の斥候が確認した。彼らは、逃亡資金の移動が完了した後、被災地を混乱させるための最後の破壊工作を実行するつもりだ。特に、お前が築いた相互支援ネットワークの要である漁港を狙っている」


ラシードの声は緊張していた。


​「彼らに漁港を破壊させてはならない。あの漁港こそが、被災地の食料問題と貧困を解決する希望の拠点だわ」


​陽菜の計画は二段構えだった。東城の力で資金を凍結させ、ラシードの力で破壊工作を阻止する。しかし、闇の勢力の残党は、武装した元傭兵や、コンサルティングファームの警備部門出身者など、戦闘経験者が含まれていた。


​陽菜はラシードに無謀な正面衝突を避け、非暴力かつ決定的な方法で彼らの行動を停止させるよう求めた。


​「ラシード、彼らの真の目的は、私たちを殺すことではなく、資金を確保し逃亡することよ。彼らの逃亡ルートを断ち切ることで、彼らは動揺するはずです」


​ラシードは、廃墟の潜伏場所から漁港へと続く唯一の山道に、地元の漁師組合の協力を得て、巨大な岩と漁網を使ったバリケードを秘密裏に構築した。その作業には、陽菜の「叫び」に応えてくれた、多くの被災者が参加した。彼らの行動する勇気が、物理的な防壁となった。


​深夜、廃墟から武装した残党の車両が発進した。彼らの無線からは、資金移動が完了したという報告が飛び交い、リーダーは高揚していた。


​しかし、彼らが山道に差し掛かった瞬間、ラシードたちの仕掛けたバリケードが作動し、車両は完全に停止した。


​「止まれ! 逃げ道はないぞ!」ラシードが拡声器で叫ぶ。


​闇の勢力のリーダーは激昂し、バリケードを排除しようとした。その時、東城隼人からのメッセージが陽菜のデバイスに届いた。


​「資金凍結完了しました、星野顧問。彼らの口座はゼロです」


​陽菜は、その情報を直ちに国際通信を通じて、ラシードの拡声器に接続させた。


​「闇の勢力の者たちよ! あなたたちの逃亡資金は、全て国際捜査機関によって凍結されました! あなたたちは、一文無しです!」


​その「叫び」は、夜の山間に響き渡った。リーダーは信じられない表情で無線を確認し、その顔が絶望に染まった。資金を失った彼らに、戦う理由も逃げる手段も残されていなかった。


​闇の勢力は、抵抗することなく、その場で拘束された。陽菜は、倫理と知恵によって、再び暴力に打ち勝ったのだ。

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