第25話 報復の連鎖


​陽菜への狙撃未遂事件は、難民キャンプ全体に衝撃を与えた。幸い、陽菜もラシードも無事だったが、この出来事は、陽菜の戦いが単なる組織内部の改革や法廷闘争ではなく、命をかけたサバイバルであることを改めて突きつけた。


​「ホシノ、すぐにここを離れるべきだ。お前の存在は、我々自身も危険に晒している」


ラシードは、強い口調で言った。


彼は、狙撃犯の正体を突き止めるため、迅速に捜索隊を出していた。


​陽菜は首を振った。


「いいえ、ラシード。私が逃げれば、彼らの勝利です。彼らが最も恐れているのは、私が生きていること、そして叫び続けることです。それに、あの青年を襲わせたのが誰か、突き止める必要があります」


​取り押さえられた青年ボランティアは、尋問に対し恐怖で口を閉ざしていたが、陽菜は彼の負の感情や強迫観念を読み取る力で、彼が家族を人質に取られていたこと、そして、彼に指示を出したのが、以前逮捕されたコンサルティングファームの幹部の、逃亡中の同僚であることを突き止めた。


​「彼らは、資金洗浄ルートが断たれただけでなく、報復のために私を殺すことで、世界の支援団体全体に恐怖を植え付けようとしている」


陽菜は結論づけた。


「これは、闇の構造を維持するための、最後のテロ行為です」


​陽菜は、被災地での安全を確保しつつ、再び本部と東城隼人に連絡を取った。


​「東城さん、闇の勢力は私を殺そうとしています。これは、彼らが国際的な法廷闘争で負けが確実になった証拠です。彼らの資金源は断たれましたが、まだ逃亡資金を持っています。この最後の資金の流れを断つ必要があります」


​東城は、陽菜の命の危険を知り、怒りに震えた。


「承知しました。彼らは逃亡資金を**『慈善活動』**という偽装の下で、国際的な送金システムに流そうとするでしょう。それが最も安全で、透明に見えるからです。私はその慈善名目の口座を特定し、凍結させます」


​陽菜は、さらにラシードに指示を出した。


「ラシード、彼らが狙撃手を使って私を狙ったということは、彼らは近くにいる。彼らは**『地平線ルート』**と、その成功モデルを完全に破壊したいはずです。彼らが逃げる前に、その居場所と、彼らの最後の計画を突き止める必要があります」


​ラシードは、地元の強力なネットワークを駆使し、武装勢力の残党が潜伏しているとみられる、被災地の山間部の廃墟を割り出した。そこは、過去に紛争鉱物の取引に使われていた場所だった。


​陽菜の戦いは、今や時間の勝負となった。彼女の命を狙う最後の闇の勢力は、彼女を殺害し、逃亡資金を確保し、そしてラシードたちが築いた「希望の連鎖」を破壊する、三段構えの計画を実行に移そうとしていた。


​陽菜は、東城の情報戦と、ラシードの現場での行動力を頼りに、闇の勢力に対する最後の反撃を準備した。


​「世界を変えるのは、沈黙を拒むあなたの勇気。私がここで倒れるわけにはいかない」


​陽菜の「叫び」は、自身の命をかけた、最後の行動を促していた。

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