第27話 真の改革と陽菜の決断


​闇の勢力による最後の抵抗と報復の企ては、陽菜、ラシード、そして東城隼人の連携によって完全に阻止された。武装残党は現地で拘束され、国際捜査機関に引き渡されたことで、一連の紛争鉱物取引と支援組織の不正に関わった全ての首謀者たちが法の下に裁かれることとなった。


​難民キャンプは、陽菜の行動する勇気と、ラシードたち地元の人を思う前向きな心によって守られた。彼らが築いた相互支援ネットワーク、すなわち「地平線ルート」は、教育、医療、食料、貧困という課題を地域主導で解決する、国際支援の新しいモデルとして世界的に注目を集めることとなった。


​陽菜は、被災地での使命を終え、本部へと帰還した。彼女の帰還は、単なる監査官の帰任ではなく、組織の**「救世主」**としての凱旋だった。


​「グローバル・ハート」の理事会は、陽菜の命懸けの行動と、彼女がもたらした組織の浄化、そして新しい支援モデルの成功を評価し、組織の全面的かつ抜本的な改革案を陽菜に一任することを決定した。


​バーネット統括は、陽菜に深々と頭を下げた。


「星野顧問、君が規則を破るたびに、この組織は救われた。君の提唱する倫理と透明性は、私たちの新しい憲法となる。この組織の未来を、君に託したい」


​陽菜は、改革案を策定した。それは、「グローバル・ハート」を、巨大な官僚組織から、倫理と現場の透明性を最優先する、柔軟で効率的な**「光の連鎖を創出するプラットフォーム」**へと変貌させる計画だった。


具体的には、全スタッフの倫理教育の強化、会計の完全なオンライン公開、そして支援物資の調達・輸送に地元コミュニティを積極的に組み込むシステムの構築が含まれていた。


​そして、陽菜自身が、この改革を指揮するための新しい役職に就くことが提案された。それは、事実上の組織の最高責任者、**「グローバル・ハート 最高倫理責任者(Chief Ethics Officer, CEO)」**という役職だった。


​陽菜は、その役職の重みを理解していた。それは、彼女の戦場を、土埃の現地から、世界の政策と資金が交差する国際的な会議室へと完全に移すことを意味する。


​しかし、陽菜は静かに辞退した。


​「最高倫理責任者としての私の役割は、組織の内部ではなく、組織の外側にあります」


​陽菜は、理事会とバーネット統括、そして全世界に向けて、改めて自らの**「叫び」**を届けた。


​「私は、特別顧問として、組織の改革を後押しし続けます。しかし、私の使命は、一組織の内部にとどまることではありません。私が目指すのは、この世界すべての支援活動が、貧困や医療格差のビジネスに使われない、倫理的なシステムを確立することです」


​陽菜の決断は、彼女が**「希望と行動する勇気」**というテーマを、特定の組織の枠を超えた、人類全体の倫理へと昇華させたことを示していた。


彼女は、**フリーの「世界倫理監査官」**として、国連やその他の国際機関と連携し、支援の闇を照らし続ける道を選んだ。


​そして、彼女の隣には、彼女の倫理的強さに感銘を受け、金融界から完全に足を洗った東城隼人が、「世界倫理監査官」の主任補佐として立つことが決定していた。


​陽菜の戦いは、組織の内部から、世界中の構造的な不正義を根絶するための、新たなステージへと踏み出した。彼女の「叫び」は、今、より広く、より深く、世界中に響き渡ろうとしていた。

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