第21話 新たな被災地へ
陽菜が主導した監査報告書の提出と、法廷での勝利は、「グローバル・ハート」に前例のない透明性をもたらした。彼女の「叫び」は、組織の再建だけでなく、国際支援全体に**「倫理的責任」**を問う波紋を広げた。本部での権限は絶大だったが、陽菜の心は満たされていなかった。
「本部での数字遊びや規定の改正だけでは、目の前で飢えている子どもたちを救えない」
陽菜は、自室の窓から見える先進国の高層ビル群を見つめながら、そう感じていた。
その頃、アジアのある島国で、大規模な地震が発生した。津波と地滑りが広範囲の沿岸地域を襲い、多くのインフラが破壊され、医療格差と食料不足が深刻化していた。
「グローバル・ハート」は、迅速に緊急人道支援チームを派遣する準備を進めていた。陽菜は、特別顧問としてこの派遣チームへの同行を理事会に願い出た。
「私の役職は監査官ですが、この災害支援こそ、組織の新しい倫理観が試される最初の現場です。過去の不正が繰り返されないよう、私が現場から直接、透明性を監査する必要があります」
バーネット統括は当初反対したが、世論の監視と、陽菜の現場での実績を無視できず、最終的に彼女の同行を承認した。
ただし、「監査官として、現地の活動を妨げないこと」という条件が付された。
出発前、陽菜は東城隼人と会った。東城は、コンサルティングファームの不正を暴いたことで、再び金融界の表舞台からは身を引いていた。
「星野顧問、私にはもう銃はありません。あなたには、本部という盾と、東城という情報があります。あの紛争地帯の二の舞にはならないでください」
東城は陽菜に、最新の暗号化された通信デバイスを手渡した。
「現地の物資の流れを追跡するためのシステムを組み込みました。貧困やフードロスにつながる不正は、このデバイスで照らします」
陽菜は深く頷いた。
「ありがとうございます。私たちの戦いは、現場と、国際的な資金の流れ、その両方で勝たなければなりません」
被災地は、想像を絶する惨状だった。道路は寸断され、医療施設は崩壊。支援物資のトラックは、悪路と行政手続きの混乱で滞留し、食料問題は日に日に悪化していた。
陽菜は、本部からのチームとは別行動を取り、すぐに地元のボランティアや漁師たちと接触した。彼女の狙いは、過去の紛争地帯でラシードと築いた**「地平線ルート」**のような、現場に根差した支援の仕組みを構築することだった。
「支援物資がトラックで届くのを待っていては、間に合いません。現地の漁船や、残された農産物を使い、被災者が被災者を助ける相互扶助のネットワークを、今すぐ立ち上げましょう」
陽菜は、特別顧問の権限と、東城の技術、そして彼女自身の行動する勇気を駆使し、新たな被災地で、透明性と倫理を貫く支援活動を開始した。
彼女の戦いは、国際支援の暗部を暴くことから、世界に希望の連鎖を生み出す具体的な行動へと、その焦点を移していた。
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