第20話 地平線に昇る光


​夜明け前の闇の中、武装勢力「影の牙」の車両が難民キャンプの防衛線に迫ってきた。飢餓と資金源の喪失で焦燥し、さらに陽菜への報復心に駆られた彼らの攻撃は、これまでで最も激しいものだった。


​陽菜は、キャンプの外周に配置された非殺傷の監視装置のスイッチを入れると同時に、衛星通信装置を起動した。


​「ラシード、頼むわ!」


​ラシードは、拡声器を手に、キャンプの簡易防護柵の影に立ち、武装勢力に向けて大声で叫んだ。


「影の牙の者たちよ! 止めろ! お前たちが奪おうとしているのは、物資ではない! お前たち自身の未来の子どもたちの希望だ!」


​陽菜は、世界へのライブ配信を開始した。画面に映し出されるのは、闇の中で非武装のラシードが命懸けで叫ぶ姿、そして、キャンプの子どもたちが静かに防衛線を見つめる瞳だった。


​「世界中の皆さん! 今、この瞬間に、武装勢力が非武装の難民キャンプを襲おうとしています! 彼らは、貧困と絶望の連鎖が生んだ暴力です。しかし、私たちは銃を持たない! 私たちの武器は、行動する勇気と、人を思う心です!」


​「影の牙」のリーダーは、ラシードの叫びを嘲笑い、発砲を命じた。しかし、彼らが発砲したのは、陽菜が設置した防護柵の周囲に設置された音と光で威嚇する装置だった。同時に、ムスタファ医師が指導した子どもたちが、キャンプから一斉に懐中電灯の光を武装勢力の目に向けた。


​銃弾は空を切り、威嚇音と無数の小さな光が、闇に潜む武装勢力の視界と連携を乱した。

​その瞬間、ラシードと地元の仲間たちが、訓練通り、防護柵のわずかな隙間から、消火器や水袋といった非殺傷の手段を使い、武装勢力の車両の視界とエンジンを標的にした。


​陽菜の「叫び」は、世界中に響き渡っていた。国際的な世論は沸騰し、平和維持を担う周辺国の軍や国際機関に対し、直ちの介入を求める声が殺到した。


​武装勢力のリーダーは、暴力が封じられ、さらに無線で


「世界中に映像が晒されている。すぐに撤退しなければ、国際的な報復を受ける」


という本部からの緊急通信を受けた。


​彼らは、自分たちの行動が世界に監視されているという事実に、極度の混乱と恐れを抱いた。暴力は、光と知恵の前で、その力を失った。


​リーダーは憎悪に満ちた叫びを上げながらも、全隊に撤退を命じた。「影の牙」は、目的を達成することなく、土埃を巻き上げながら闇の中へと逃げ去った。


​夜明けが訪れた。難民キャンプは、無傷だった。

​陽菜は、ラシードと抱き合い、勝利を確信した。この勝利は、陽菜の告発による**構造的な改革(本部での戦い)と、ラシードたちの現場での勇気ある行動(地平線での戦い)**が融合した結果だった。


​数日後、陽菜の告発と現場の映像は、武装勢力への国際的な制裁と、不正に関与した企業への捜査をさらに加速させた。陽菜は、特別顧問として国際連合の場で、**「紛争を永続させる構造を断ち切るための、国際支援の新しい倫理と透明性の枠組み」**を提唱した。


​彼女の戦いは終わらない。だが、彼女の**「世界を変えるのは、沈黙を拒むあなたの勇気」**というメッセージは、難民キャンプの地平線に昇る光のように、世界中の人々の心に深く刻まれた。

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