第22話 延滞する支援と信頼の連鎖
陽菜は、被災地で独自の活動を開始した。彼女は、漁師組合のリーダーや、破壊を免れた小さな農園の代表者たちと連携し、支援の遅延で苦しむ地域のために、**「被災地内相互支援ネットワーク」**を迅速に構築した。
このネットワークは、陽菜の「地平線ルート」の理念を応用したものだった。
食料問題対策:
漁師たちは、水産物を難民キャンプに無償で提供し、代わりにキャンプのボランティアが漁網の修繕を手伝う。規格外だが品質に問題ない農産物を、陽菜が調達した資金で適正価格で買い上げ、フードロスを削減しつつ食料とする。
医療格差対策:
地域の伝統的な治癒師や、小さな診療所で働く看護師たちを集め、陽菜が持ち込んだ基本薬と通信デバイスを活用して、被災した村々を巡回する**「移動式巡回医療チーム」**を組織した。
陽菜は、もはや「グローバル・ハート」の職員であることを盾にせず、一人の人間として、彼らの**「行動する勇気」**を引き出した。彼女の監査官としての役割は、本部で不正を暴くことではなく、現場で不正の入り込む隙を与えない、透明な仕組みを創造することだった。
しかし、支援の主要ルートである本部からの大規模な物資輸送は、予期せぬ遅延に見舞われていた。船積みが何度もキャンセルされ、現地スタッフからは不安の声が上がり始めた。
「陽菜さん。本部からの物資が来なければ、この相互支援ネットワークも長くは持ちません。子どもたちの栄養不良が進んでいます」と、現地のリーダーの一人が訴えた。
陽菜は、特別顧問としての権限を使い、本部に直接、遅延の理由を問い合わせた。返ってきた答えは、「国際輸送の規制強化」や「書類の不備」といった、形式的なものばかりだった。
陽菜は、東城隼人から渡された追跡デバイスを使い、本部からの輸送プロセスを裏側から調べ始めた。彼女の suspicions は的中した。遅延の原因は、外部の規制ではなく、本部内の抵抗勢力による意図的なものであった。
不正に関わった幹部は逮捕されたが、彼らの古い仲間や、官僚的な手続きを絶対視する者たちが、陽菜の主導する迅速な支援を「無秩序」と見なし、故意に輸送手続きを複雑化させていたのだ。彼らにとって、陽菜の「現場第一主義」は、自分たちの権威と既得権益を脅かすものだった。
陽菜は、本部内の抵抗勢力が、支援を遅らせることで、現地での彼女の信頼を失わせ、結果として**「貧困と医療格差」を悪化させようとしていることを理解した。彼らは、陽菜を現場から孤立**させようとしていた。
陽菜は、現地で築いた信頼のネットワークを守るため、そして本部内の古い体質に再度「叫び」を届けるため、決断した。
「本部からの輸送に頼るのをやめます」
陽菜は宣言した。
「東城さんのネットワークを使い、被災地と最も近い中立国から、小型の輸送機と高速船で物資を直接運びます。本部を通さず、東城さんと、現地の漁師組合に協力を仰ぎ、新しい緊急支援ルートを創設する。この遅延は、組織の倫理に反する犯罪的な行為です。私は監査官として、この不正義を許さない」
陽菜の新たな行動は、本部への直接的な挑戦であり、彼女の戦いが、組織内の構造的な怠慢という、より厄介な敵と対峙するフェーズに入ったことを示していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます