第19話 地平線での再会と最終防護線
陽菜は、東城隼人から提供された国際的なコネクションを駆使し、驚異的な速さで難民キャンプに必要な物資と防衛装備を調達した。
それは、国際法に抵触しない範囲の非殺傷性の防護柵、医療品、そして通信機器だった。東城の、金融界の裏を知り尽くした知識は、組織の壁を遥かに超える力を発揮した。
「星野顧問。これが私の最大の支援です。これを使い、現場の命を守ってください」
東城は、積荷を見送りながら、深く頭を下げた。
陽菜は、物資とともに、自らも難民キャンプへと向かった。彼女の役職は「透明性・倫理監査 特別顧問」だが、彼女の心は常に、土埃の戦場にあった。彼女の**「行動する勇気」**は、今、最も試される瞬間を迎えていた。
数日後、陽菜は極秘裏にラシードたちのいる場所へと到着した。再会を果たしたラシードは、安堵と同時に、彼女の無謀さに怒りを覚えた。
「ホシノ! なぜ戻ってきた! お前は世界の舞台で叫び続けることが、俺たちの最大の防御のはずだ!」
陽菜は、土埃にまみれながらも微笑んだ。
「叫ぶだけでは、命は守れない。私は、この命を守るために、規則を破り、闇を暴いた。今度は、行動でこの希望を守る番だ。そして、私はもう『グローバル・ハート』の顧問ではない。ただの、ラシード、あなたの仲間だ」
彼女の言葉に、ラシードの怒りは静まり、彼の目に強い決意が宿った。
陽菜が持ち込んだ物資は、難民キャンプの防衛計画を一変させた。ラシードは、彼女が提供した防護柵や監視装置を使い、ムスタファ医師や地元の協力者たちとともに、急ピッチでキャンプ周辺に非暴力の防衛線を構築した。
「影の牙」は、資金源を断たれた焦りから、夜明け前にキャンプを襲撃する計画を立てていた。彼らの目的は、食料と支援物資の略奪だけでなく、陽菜を捕らえ、国際社会への報復を果たすことだった。
陽菜は、キャンプの子どもたちを集め、彼らに防衛の協力を求めた。
「私たちは、銃を持たない。私たちの武器は、知恵と勇気です。あなたたちが作った『地平線ルート』は、希望の道だ。その希望を、皆で守るのです」
夜が更け、難民キャンプは静寂に包まれた。陽菜は、最新の監視装置の前でラシードと並び、目を凝らした。彼らの背後には、教育と食料、そして医療という、陽菜が世界に訴えてきた課題解決の結晶である、子どもたちの眠るテントがあった。
午前三時。遠くの地平線に、武装勢力の車両が立てる土埃の微かな影が確認された。
「来たぞ、ホシノ。これが、お前の叫びの最後の戦いだ」
ラシードは、固く拳を握りしめた。
陽菜は、懐に隠し持っていた衛星通信装置を手に取った。彼女は、この戦いの映像を再び世界に届けるつもりだった。
この戦いは、キャンプの防衛だけでなく、**「世界を変えるのは、沈黙を拒むあなたの勇気」**というメッセージを、決定的な行動として証明するためのものだった。
彼らの眼前に、闇が迫っていた。
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