第14話 故郷への影
「グローバル・ハート」の内部監査は、陽菜が主導する透明性の要求によって、徐々にだが確実に進行していた。彼女は、監査の一環として、過去の紛争地帯への物資輸送の契約書や、特定の資源取引企業との連携記録を徹底的に調べ上げた。その過程で、本部内の改革を歓迎する若手職員や、不正を嫌う古参の専門家たちが、陽菜の静かな**「抵抗」**に参加し始めた。彼女の存在は、組織に希望をもたらす光となりつつあった。
しかし、陽菜の行動は、国際的な武器商人と資源取引企業から成る闇の勢力にとって、深刻な脅威となっていた。彼らは、陽菜が顧問という立場を得て、内部から構造の核心に迫りつつあることを理解していた。
陽菜のオフィスに届いた警告は、単なる脅しでは終わらなかった。彼らの次の行動は、陽菜の最も大切なもの、すなわち**「彼女の過去と、愛する場所」**に触れることだった。
ある日、陽菜は、故郷である日本で、彼女が設立に関わった小さなNPO団体が、突然の資金難と、不審な税務調査によって活動停止に追い込まれているという知らせを受けた。そのNPOは、海外の孤児や難民のために、日本の技術や教育リソースを繋げる、陽菜にとっての「故郷と世界の接点」となる大切な場所だった。
「これは偶然ではない」陽菜は直感した。
彼女の告発によって得た利益ルートを絶たれた闇の勢力が、陽菜の**「人を思う前向きな心」が活動する基盤、つまり彼女の倫理的な弱点**を突いてきたのだ。彼らは、陽菜の活動を潰すことで、彼女を孤立させ、精神的に追い込もうとしていた。
陽菜は、バーネット統括に日本のNPOの状況を報告し、国際的な監査部門を通じてこの不審な動きを調査するよう求めた。
「彼らは、私が個人的に大切にしているものを破壊することで、私を沈黙させようとしています。これは、私が暴こうとしている構造的な問題、すなわち貧困や教育格差を、合法的な手段を使って継続させるための巧妙な攻撃です」
バーネット統括は、陽菜の告発に心を動かされた一人だったが、この攻撃の巧妙さに顔を曇らせた。
「これは国際的な取引の闇が、君の個人的な活動にまで手を伸ばしてきたということだ。彼らは、君が持つ倫理的な強さが、最も脆い弱点だと知っている」
陽菜は、本部での監査作業を続けながらも、心の内で激しい葛藤に苛まれた。故郷の仲間たちを見捨てることはできない。だが、ここで本部を離れれば、彼女が築き上げてきた改革の道筋が潰えてしまう。
その時、遠い紛争地帯から、ラシードから暗号化されたメッセージが届いた。
「ホシノ。お前の叫びは、まだ終わっていない。ここでの地平線ルートは、お前が想像する以上に強くなった。お前が世界を相手に戦っている間、俺たちはこの場所を守る。お前の故郷のことは心配するな。お前の光は、ここにも届いている」
ラシードの言葉に、陽菜は目頭が熱くなった。彼女の行動は、確かに世界に連鎖を生んでいた。故郷の困難も、この闇の構造との戦いの一部である。
陽菜は、本部での立場を使い、国際的な弁護士や金融専門家からなる非公式のチームを組織し、故郷のNPOへの不当な圧力を調査するよう、秘密裏に指示を出した。
「逃げも隠れもしない。私が暴くのは、紛争地帯の闇だけではない。平和な国で、合法的な顔をして、世界の不正義を支えている闇の構造もだ」
陽菜の戦いは、今、紛争地帯の土埃と、本部ビルのガラス、そして故郷の静かな街並みという、三つの戦場で同時に展開し始めた。
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