第15話 合法的な顔をした闇
陽菜は、透明性・倫理監査 特別顧問として本部内での権限を最大限に行使し、過去の輸送契約や、特定の鉱物資源企業との不自然な取引記録を洗い出していた。彼女の戦いは、内部の抵抗勢力との静かな知恵比べだった。
「星野顧問。この契約は国際法に基づいています。問題はありません」
と監査対象の担当者は冷たく言い放つ。
「形式的にはそうでしょう。ですが、この物資が高値で特定の武装勢力に流れ、その見返りに紛争鉱物が安価に買い叩かれているという事実を、貴方は知らないと?」
陽菜は、証拠を突きつけることなく、倫理的な問いを投げかけることで、相手を揺さぶった。彼女は、**「合法性」の裏に隠された「非倫理性」**を暴こうとしていた。
その頃、故郷のNPOへの不当な圧力は、さらに巧妙化していた。不審な税務調査に加え、NPOの活動を誹謗中傷する偽情報がインターネット上に大量に拡散され、信頼が失墜させられていた。これは、闇の勢力が雇った情報戦の専門家による、陽菜の「叫び」を逆手に取った、世論操作だった。
陽菜は、国際的な弁護士チームから届いた報告書を受け取り、その背後にある闇の構造の一端を知った。故郷のNPOへの圧力をかけているのは、表向きは慈善活動にも積極的な、とある国際的な金融コンサルティングファームだった。
「彼らは、資金洗浄や不正取引を専門とする、合法的な顔をしたマフィアです」
と弁護士は報告した。
「彼らのクライアントは、紛争地帯の資源を牛耳る企業であり、その企業の利益を守るために、あなたの活動を潰しに来たのです」
この事実は、陽菜が追い求める「世界の構造的な不正義」が、土埃の紛争地帯だけでなく、先進国の高層ビルの中に存在することを証明していた。彼らは、教育や貧困を解決しようとする陽菜の活動を、自らのビジネスへの「リスク」と見なしていた。
陽菜は、故郷の仲間たちが、自身の告発の余波で苦しんでいることに胸を痛めた。しかし、彼女がこの場で立ち止まれば、闇の勢力の勝利となる。
彼女は、本部での監査チームに対し、「グローバル・ハート」が過去に支援した全ての紛争地帯の、同時期の国際的な鉱物取引データを、外部の専門機関に依頼して分析するよう指示した。これは、不正の連鎖を断ち切るための、決定的な一手だった。
「彼らが合法の盾を構えるなら、私はその盾を破るための、倫理と情報の剣を研ぎ澄ます」
陽菜は、ラシードからのメッセージを思い出した。
「お前の光は、ここにも届いている」
彼女の戦いは、もう一人の戦いではない。現地で命懸けで食料と希望を届けるラシードたち、そして故郷で理不尽な圧力に耐えるNPOの仲間たち。彼らの存在が、陽菜の**「沈黙を拒む勇気」**を支えていた。
陽菜の次なる「叫び」は、国際社会の盲点となっている、**「合法的な顔をした闇」**の構造を暴くことに向けられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます