第11話 希望を守る最後の行動


​夜明けが迫っていた。武装勢力「影の牙」が地平線ルートの要となる村を占拠し、陽菜が築いた食料と希望の連鎖を断ち切るという情報が、陽菜とラシードたちを緊張させていた。


​「影の牙の目的は、陽菜を捕らえることと、食料調達を止めることだ」


ラシードは静かに言った。


「村の占拠が成功すれば、難民キャンプの飢餓は確実になる」


​「村には、地平線ルートに協力してくれている農家や商人がいます。彼らの命も危険に晒されます」


ムスタファ医師が焦燥感を滲ませた。


​陽菜は、冷静に作戦を立てた。彼女には、武装勢力と正面から戦う力はない。彼女の武器は、**情報と、現地の人々の信頼、そして、世界への「叫び」**だ。


​「ラシードさん、あなたは少数の仲間と村に向かい、住民を安全な場所に避難させてください。私は村には行きません。私の目的は、影の牙の行動を世界に公開し、彼らを動けなくすることです」


​ラシードは陽菜の決断を理解した。


「分かった。だが、どうやって公開する?」


​陽菜は、以前本部から持ち出した、小型で高性能な衛星通信装置を取り出した。


​「私は、この場所から、影の牙が村を襲撃する直前の様子を映像と音声で世界にライブ配信します。彼らの行動を、**世界中の人々の『目』**によって監視させるのです。武装勢力にとって最も恐ろしいのは、国際的な非難と、その行動がビジネスの障害となることです」


​これは、陽菜の「行動する勇気」の集大成だった。彼女は、自らを囮にすることで、現地の人々を守ろうとしていた。


​夜が明けきらぬ薄明かりの中、ラシードは数人の仲間とともに村へ向かった。陽菜は、ムスタファ医師と二人で、隠れた場所から衛星通信装置の準備を進めた。


​「ホシノさん、命を危険に晒す必要はない。逃げてくれ」


ムスタファ医師は心配そうに言った。


​「逃げません。私が見て見ぬふりをすれば、彼らの命は助からない。私は、沈黙を拒む代弁者として、最後までここにいる義務がある」


​通信装置の準備が整った直後、遠くから車両のエンジン音と、人の怒鳴り声が聞こえてきた。影の牙が村に到着したのだ。

​陽菜は装置のカメラを向け、世界に向けて配信を開始した。


​「今、この瞬間、国際社会の目を逃れようとする武装勢力『影の牙』が、人道支援のルートを断ち切るために、罪のない村を襲撃しようとしています。私たちは、支援を求めるのではなく、正義と行動する勇気を求めます。この映像が、彼らの不正義に対する証拠です!」


​陽菜の訴えが世界中に響き渡る中、ラシードは村の広場で影の牙のリーダーと対峙していた。


​「手を引け、ラシード! 貴様らはホシノの道具にされているだけだ! あの女を渡せば、村は見逃してやる!」


リーダーは叫んだ。


​「道具ではない! 彼女は光を運んできた! お前たちが売買する命の重さを、世界に叫んでいる!」


ラシードは胸を張って答えた。


​その時、影の牙のリーダーの無線機に、本部からの緊急通信が入った。


​「全隊、直ちに撤退せよ! 貴様らの行動は世界中にライブで晒されている! 組織のビジネスに支障が出た! 直ちに撤退しろ!」


​陽菜の「叫び」が、本部と武装勢力の連携を断ち切り、彼らの行動を停止させたのだ。


​影の牙は怒りに震えながらも、世界的な非難と、ビジネス上の損失を恐れ、撤退を余儀なくされた。村は守られた。地平線ルートは維持された。


​陽菜は、世界への配信を終え、その場に崩れ落ちた。


勝利だった。


それは、銃ではなく、希望と行動する勇気が勝ち取った、静かで、しかし確かな勝利だった。

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