第10話 波紋と迫る影
本部からの通信が遮断された瞬間、陽菜は自分が組織にとって完全に危険人物となったことを悟った。
バーネット統括は激怒し、陽菜の身柄を確保し、すべてのデータを押収するよう指示を出した。
しかし、時すでに遅し。陽菜が託した情報は、大手メディアの若手記者によって瞬く間に世界中に拡散されていた。
**「国際支援の闇」「人道支援が紛争の燃料に」 「援助団体幹部の不正疑惑」**
の見出しが、主要なニュースサイトを占拠した。陽菜の演説とムスタファ医師の映像は、世界中の人々に衝撃を与え、大規模な抗議デモや、支援団体への説明責任を求める声が湧き起こった。
この国際的な波紋は、**「グローバル・ハート」**を激しく揺さぶり、内部の不正に関与していた者たちを混乱に陥れた。彼らは証拠隠滅に走り、陽菜を裏切り者として排除しようと躍起になった。
陽菜は、何とか本部を離脱し、複雑なルートを使い、現地へと急いだ。彼女はもう、組織の人間ではない。しかし、彼女の心は、ラシードやムスタファ医師、そして何よりも難民キャンプの子どもたちのもとにあった。
数日後、陽菜は国境近くの隠された地点で、ラシードと再会した。
「ホシノ! 生きていたか!」
ラシードは喜びのあまり、陽菜を力強く抱きしめた。彼の背後には、地元の信頼できる仲間たちと、ムスタファ医師の姿があった。
「私が撒いた種が、本部を燃やしている」
陽菜は息を整えながら言った。
「しかし、彼らは沈黙しないでしょう。不正を暴かれる前に、現場を抑えにかかるはずです」
ラシードは頷いた。
「その通りだ。本部の動きもそうだが、お前の告発のせいで、影の牙は完全に警戒レベルを上げた。裏で繋がっていた本部の一部幹部が焦っていると知ったからだ。やつらは、お前を捕らえて口を封じようとするだろう。そして、お前が築いた地平線ルートを破壊しに来る」
陽菜の告発は、闇の構造に切り込むことに成功したが、同時に、その構造を維持しようとする武装勢力と組織内の裏切り者たちを、危機的な行動へと駆り立ててしまったのだ。
「地平線ルートは無事ですか?」
陽菜は尋ねた。
「ああ。お前が訴えたおかげで、地元の農民も協力に積極的になっている。彼らも、支援が自分たちのビジネスを壊し、紛争を長引かせていることに気づき始めている。我々の教育は、着実に実を結んでいる」
ラシードは誇らしげに言った。
陽菜は、自分の行動がもたらした「光」が、確かに現場の人々の「行動する勇気」を育んでいることを確信した。
しかし、その夜、静かに情報を集めていたムスタファ医師が、陽菜のもとにやってきた。
「ホシノ、悪い知らせだ。影の牙の動きが活発だ。彼らは、キャンプを襲撃するだけでなく、君たちが利用している地平線ルートの要となる村を占拠し、食料の買い付けそのものを止めにかかるだろう」
「いつですか?」
「夜明けだ」
陽菜は、時間がないことを悟った。武装勢力の目的は、陽菜を捕らえることと、彼女が築いた「貧困と食料問題を解決する希望の連鎖」を断ち切ることだ。
陽菜は、ラシードとムスタファ医師に向き直った。彼女はもう、国際支援団体のスタッフではない。ただの、世界の不正義に立ち向かう一人の人間として、決断を迫られていた。
「私たちは、ただ待ってはいられない。彼らの行動を阻止し、地平線ルートと、子どもたちの命を守らなければならない」
陽菜の瞳には、かつての学生時代の迷いは一切なかった。そこにあるのは、現場の土埃と、命の重さを知る者だけが持つ、燃えるような行動する勇気だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます