第42話 邂逅



 仲里主催の自主トレは休みをところどころ挟みながら二週間ほど続いていた。

 他の自主トレよりも長いのはハングリー精神を余している若手三人と、誰よりも目標が高い最盛期の仲里が集まっていたからだろう。


 そして年末に近づき、智久は球団本部を訪れていた。

 紙袋には両親に持たされた羊羹が入っている。

 正月だけは実家にと神奈川の大倉の方面に帰省していた。


(さっきまでおせち食ってたのに......)


 智久が両親に近況を話しているうちに挨拶はどうなのかという話になった。

 少し古い性格の人で礼儀やしきたりなどを特に重要視していたのだ。

 だからこそ仕事先に挨拶にいけ、と無理矢理持たされ、球団本部に着いていた。


(まず開いてんのかなぁ)


 扉の前に立つ智久はそんなことを考えていた。

 どこか緊張しく、そわそわとしている。

 冷静に考えれば正月に訪問などしても誰もいないだろう。


 その瞬間、扉が開き、前で右往左往していた智久とドンッとぶつかる。

 智久が顔を上げると、そこには大柄な体に金色のクルッとしたショートの髪に焦げ茶色の瞳が白い肌を際立たせているマッチョが立っていた。


「Oh!サカイさん!話は聞いていますよ!」


 中々に流暢な日本語で彼は喋り始める。

 とても陽気な声色で智久の名を口に出した。


「あ、ハロー。コモエスタス?」


「Hello、サカイさん。それはスペイン語デスよ」


 そう指摘されると頭を軽くかく智久。

 彼が誰なのか分からない智久は愛想笑いしか浮かべられない。


「あの.......誰でしょうか?」


「ワタシの名前はブランドンと言います。次の......監督デス!」


 言うやいなや右手を差し出すブランドン、その手を智久は握り返す。

 まさか監督とは知らず、気軽に話しかけたことをすでに後悔し始めていた。


「それは......どうも」


「サカイさんには来年のキーパーソンになってもらいます」


 唐突に言い出すブランドンに智久は面食らう。

 外国人あるあるなのかよく話とテンションが飛ぶ。

 智久は若干英語が苦手で横文字はやだなぁと考えていた。


「どういう意味です?」


「ズバリ、サカイさんがシーグルズの中でセイバーメトリクスの観点からみるとエースピッチャーだからデス」


 セイバーメトリクス、野球を主観的にみるのではなく、あくまで客観的に俯瞰的に判断するデータの塊だ。勝負強いや伸びが良いなどをすべてデータに示して選び取る。もっともスポ根から離れた考え方と言えるのだ。


 主にメジャーリーグで展開され、最近ではUzrなど日本でもよく聞かれるようになった。冷酷、しかしなによりも最も選手を正しく評価できる。


「そう、ですね......基本怪我ばかりだったので」


「ウーン、まあそれ以外もありますけど...... オット、時間デスね。また二月に会いましょう」


 そう言って嵐のように去っていくブランドン。

 智久はしばらく呆然とする。

 そしてあることに気づいた。


「あ、羊羹渡し忘れた......」




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