三年目 元天才は再び
第43話 開幕
冬が明け、少しずつ温かい季節になる。
季節は過ぎ、智久含めるシーグルズのメンバーも新監督であるブランドンの方針に徐々に慣れ始めていた。
ブランドンの方針、一言で表すとデータ厨。かっこよく言えばセイバーメトリクスの精神に則ってマネージメントを行う。例えばペナントの最中は極力バントは使わない、と決めておきほぼ野手陣はバントの練習は行わなかった。
投手陣もしかり、前年の成績を踏まえて奪三振率が悪いと奪三振を、四球癖やストライク率が悪いと制球を高める練習をやらせていた。前年の椎葉と違い、ブランドンはコーチに任せるというよりは自分自身で指揮を取って回っている。
そんなこんなで二月をキャンプでまるまる過ごし、三月のオープン戦では智久は確認のために数試合登板するだけだった。それでもブランドン監督には開幕投手に指名さた。
(なんで俺なんだよ......)
前季、長期離脱しながらも智久と同数の勝ち星を上げた
今、智久はアウェイの大観衆の中でマウンドに立っていた。
キャッチャーマスクを被るのは中川、ファンからはふたりの頭文字を取って井の中コンビと呼ばれている。
「よし、行くぞ!」
そう言って中川は智久の背中をバンっと叩く。
一回の表を無失点に抑えたハイヤーズのファンが最高潮のボルテージとともに応援歌で一番を迎える。
(いきなり......)
一番打者が左打席に入る。
三年間、メジャーでプレイして帰ってってきたハイヤーズ生え抜きの
シャープな体格はたゆまぬ努力の証拠。
三十半ばを超えてもなお、全盛期のような肉体を維持している。
初球を高めのストライクゾーンギリギリを攻める。
前シーズンではアウトローを多用していたが、高めを空振りを取るために使う。
ブランドンと大柳が示したのは智久のコース別被打率とOPSだ。
回転率が高い智久のストレートは、芯を食えば打球速度や角度が出やすい。
ならば高めでも変わらないのではないか、そういった推測から高めのデータを取ると、なんと低めの空振り率と比べても倍近くあった。
そのストレートで本田から空振りを奪う。
オフに仲里と取り組んだ自主トレにより、最大球速は150を超える。
入団当時には130後半までしか出なかった球速が、プロでも左腕の中では速い部類された。
続けてカーブ、幕張スタジアムでは風のせいか異様に曲がることがある。
北海道ハイヤーズはドームなので通常の域からはでなかったが。
アウトローの球を本田は見逃した。
ツーストライク、セイバーメトリクスに則ればゾーン外が勝負。
中川のサインに智久は首を縦に振る。
ゾーン外、智久の持ち玉から繰り出さられるのは高めへのストレート。
あとはボールゾーンへと逃げる変化球だ。
一球目に高めへのストレートの切り札は切ってある。
メジャーでは得意球を二球も三球も続けることがあるのだ。
ただ智久のどれもが一流であるが、どれも超一流ではなかった。
だから定石通りのコース。
もし読まれていたとしても滅多に飛ぶことはない。
選んだのはスプリット。
ふたつの指で浅く挟んだボールは鋭くストライクからボールへと変化した。
差し出されたバットはボールに当たらず空を切る。
空振り三振。
ドームからため息が漏れた。
最初のアウトは三振で奪う。
開幕投手という重役に選ばれた智久はブランドンの予見通り、最高のスタートを切っていた。
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