第7話 牛肉と馬鈴薯と大根
こんな夢を見た。
風呂場、私はすり下ろした馬鈴薯と大根を生肉そっくりに整形しようとしている。どうやら完璧な生肉の模倣が出来ないと落第してしまうらしい。
何遍やってもうまくいかぬ。どうも色が暗い。サシが少ない。ぶよぶよしている。気味が悪い。
母に見せてみることにした。母はこの分野の権威ということになっている。私の整形した生肉を見るなり、母は顔を顰めた。
「本当に本物を見たの」「この色の暗さ、育て方を間違えたのかしら」「こんなものを造っているあんたが可愛くない」。駄目出しの嵐である。その割に改善案は一向に出してくれない。疲れ切った私は、母に手本を見せてくれるようせがんだ。
母は渋っている。「こんな素材じゃ上手く作れる訳がない」「もう一度持って来なさい」「想像力が貧困すぎる」。並べられた母の言葉に私は苛立ち始めた。せめて指摘した後は前向きな意見を出して欲しい。人格を攻撃しないで欲しい。私の我儘だろうか。
大根も馬鈴薯もすり下ろしたら白に近い。それを赤く染めようとするのは、私の創作意欲の現れだろうか。実際の母はこのような否定的な人間ではなかった。私の超自我なのか。
今日も私は創作に手を伸ばす。すり下ろした大根と馬鈴薯で、官能的な生肉を造るために。
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