第6話 雨の蝶

 こんな夢を見た。

 雨の降る夜さり、私は廃墟になった遊園地を散策している。数百年前に運営をやめた遊園地であるというのに、観覧車とメリーゴーランドだけが稼働している。私は遠く流れるキラキラした音楽に背を向け、遊園地の深部に向かっていった。

 トランポリンのコーナー、ジェットコースター、高所から急に落ちてくる絶叫マシン……しんとした遊具の死骸を横目に見ながら、どんどんどんどん進んでいく。

 私は遊園地の最奥まで来た。何もない茂みである。導かれるように其処へ行くと、青く光る蝶が一匹蹲っていた。私はしゃがんで蝶を掬い上げた。蝶はすぐに飛び立ち、雨粒を含んだ鱗粉をきらきらと振りまきながら、何処かへ行ってしまった。

 私は――雨の遊園地に独り立ち尽くす。蝶の飛んでいった方向を、何となく眺めている。

 そういえばこの遊園地は、数十年前に取り壊された近所の遊園地だった――と気づいた時には、蝶はもう雨と夢の向こう側へと消えていた。

 私は今日も、次元の間から酔歩して飛び出た蝶を夢む。

 

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