第8話 花の王国と苔生した犀(サイ)
ミモザの女王が総べている花の王国がある。女王には陰気な霞草の青年ヤコブ、常に躁である向日葵の長女マーレイ、芯の強い親指姫のジュディ、まだ何の花になるかもわからない引っ込み思案の末娘メアリーという子どもたちがいる。王国は王位継承権を巡って揉めているが、誰もが王国を出たがっている。
メアリーは特にこの独裁国家を嫌っていた。姉のジュディに相談したものの、「私だってここから出たい」と泣きながら突っぱねられる。ヤコブは「仕方ないよ」と翳りを見せるばかり。マーレイはただひたすら狂ったように踊っていた。
さて、そんな王国で祭りが開催された。人間の男女が顔まで隠した黒い全身タイツを着て、風船を奪い合う。風船を奪われた者はミモザの女王によって八つ裂きにされて粛清される。百花繚乱の明るい花畑のなか、男女が逃げ惑う。その間もどこかで血が舞い、花が赤く染まる。
私と友だちは命からがら風船の集団から逃げ出して、草原の丘へと向かっていた。丘の上には小さな穴がある。虫も動物も人間も、皆その穴を目指して丘を登っていく。草原を見渡すと赤、白、青の風船が一面を覆っていた。皆ミモザの女王に殺された人間たちの風船だ。私と友だちはそれを見て、「フランスに行きたくなっちゃうね」と無邪気に笑った。
穴の手前、巨大な犀が蹲って眠っている。既に犀の背中には苔が生している。何百年ここで眠っているのだろうか。私と友だちは犀の背に乗った。
「ふっかふか!」
「起きないかな、大丈夫かな」
「大丈夫だよ」
犀は優しい瞳で穴を見つめていた。
夢日記 四十住沓(あいずみ くつ) @Solaris_aizm
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