END「届いた電話」

「はい」


 扇かなめは反射的に電話を取った。百代蒐ももしろ しゅうが伸ばした手は掠めて下に落ち、だるそうに頭後ろで組まれた。


『ともこ……! ねえ放送室に来てよ。明日は来てね』

 

 明瞭で透き通るような、女生徒の声だった。かなめは応える。


「ともこじゃないです」

 

 電話は切れた。ツーツーともう何も聞こえない。


「誰だよ」

「ともこの友達、だと思う」

「まあ憑かれてねぇならいいわ、」


 蒐は踵を返すが、かなめは踏み止まった。


「伝言しないと。放送室って どこかな?」

「その電話は十中八九、人じゃないんだわ。お前は普通、、になりたい。なら、関わんな」

「人だったよ」

「だった怨霊」

「怨霊だって未練を晴らしたいよ」

 

 ぴくりと耳を動かし蒐はしかめ面をする。


「……別にどーしようと勝手だよ。お前が好きにした結果死のうと俺に未練はないからな」


 そのまま階段を降りて行くが、ついてこないかなめに言葉を足す。


「放送室は一階だ」

「ありがとう、蒐くん」


 かなめは破顔して、黒い学ランの背を追った。

 


 V



 ――生徒はすみやかに下校し


「ましょう!?」


 放送部員、屋敷智子やしき ともこの声が裏返ったのは、乱入した生徒がいたためである。放送中入室禁止の赤ランプは点灯しているはずなのに、と思いながら慌てて放送スイッチを切る。


「ななんですか」

「ともこさんはいますか」

「わわたしだけど」

「ああよかった! けど来てるのに ね?」

 

 乱入の女子生徒、かなめは不思議そうに振り返り、仏頂面のまま蒐は訊く。


「サイトウさんは知っているか」

「ヒッ」


 屋敷智子はびくついた。


「あのチェーンメールだが、妙だよな。学校内の、、、、四人に、てのが。拡散したいけど限定したい、まじで誰かに伝言してえみたいに」

「し知らない、み見てない、携帯電話は」

「知らないのにその怯えよう、問答面倒、早よ話せ。扇かなめが聞いている」

「扇……ああの、神社の」


 かなめはこくんと頷いた。壊れた扇でスゥと指す。


「清き心あらば神のまにまに扇が導くでしょう」

 

 とたん静謐な社にいるように、空気が澄んだ気までする。「神器それ持ち歩いてんのかよ、」と蒐は引き気味であったが。ともかく智子は話し出した。


「ささ斎藤瑠花ちゃん。放送部員だったの。二ヶ月前に、事故で……」


 亡くなった、とか細く告げる。


「くクラスの人気者で、アナウンサーになりたいってほ放送部にはいってきて……放送大会の選抜は一人だから、録音テープで、わ私と多数決になったの。それで、瑠花ちゃんになったの。び美人だしいきなり上手だから、し仕方ないと思った。でもみみんなぎくしゃくするようなって。くクラスで仲間外れにされたくないから、ごめん、って言われて……。よ四人一緒にやってきたのに、放送でしかままともに喋れないのに、もうずっとダメなんだって、部活にい行かなくなっちゃって、それから」


 智子は堰きったように話しだしてから、途中で口を閉ざした。


「で? サイトウさんから電話が来たのか」


 蒐が無機質な声で促すと、智子は脅されでもしたかのように震えて続ける。


「めメールで。ほ放送大会に送るテープ、確認してって。電話も来たから、と取らずに電源切っちゃって。学校も休んで。その後に、」


 また口を噤むが、蒐は聞くべきことは聞いたというような顔で勝手に放送室のスチール戸棚を開けてあさり、ひとつカセットテープを取り出した。放送大会提出とラベリングされている。ラジカセに押し込むと再生ボタンを押した。


《レ……ダノタ……ッキキ……レ……ブ》


 声のようだが至極不明瞭な録音テープだった。目配せすると扇かなめはうなずく。

 

「呪われているので 祓います」

  

 ゆるりと扇が弧を描き、ごく自然に舞に移行する。塩撒き鈴鳴らし、鳥居の中でこそ発揮されるような儀式も、扇かなめには不要らしい。寸分狂いない無音の舞に、是非なく怨念が浄化されていく。

 蒐は残り火を看取るように目を細めた。

 


〈――夢は、叶わないこともあるかもしれません。しかし、その思いが誰かに伝わることで、未来へつながっていくのだと思います。だから、私は正しく伝える仕事をしたいと思います――〉



「わ私の。」

「だったみたいだな」

 

 明瞭になったテープ音に智子が困惑していると、かなめの携帯電話が鳴る。

「はい」と、今度は智子に渡した。


『ごめんね。私のせいでみんなバラバラになっちゃって。ともこがすごいと思ったから、一緒に目指したかったの。ねえ 叶えてよね』


「……う、ん」


 言葉に詰まりながらも智子が頷くと、電話はそれきり切れた。


「さ、部活動は終了だな。糸こんにゃく買って帰ろーぜ」

「放送したらみんなに正しく伝わるね サイトウさんは届けられたから もう回さなくていいよ、て」

「あの、ありがとう……? 部活動って、あなたたちは」

 

 不審の二人に屋敷智子は問う。扇かなめでない方が振り返って付け足した。わずか八重歯をのぞかせて。

 

「怪異研究会の見解では、てな」 



 チェーンメールは回らない

 END「届いた電話」


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怪異研究会の見解では、 る。 @RU-K

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