END「外れたチェーン」

「はい」


 半ば奪うように扇かなめの電話を取る。

 超霊媒体質だ。電話越しにも憑かれる可能性は大いにある。


 砂嵐の中にいるような非常に電波の悪い音質で、声がした。


《トも………ね………シ………ネ》


「分からん。来るなら噛む」


 解するタイプか不明だが、応答数秒の後、電話は切れた。


「なんて?」

「さあ。帰るぞ。手足取りにきたら喰ってやる」

「物騒だよ。肉じゃがの方がいいなあ」

「意味の分からん文脈で晩飯をリクエストすな」


 夕暮れの校舎ではチャイムが鳴り渡り、下校を促すアナウンスが流れる。


 ――生徒はすみやかに下校しましょう……


 車輪は淀みなく回って一台の自転車が土手を走る。

 扇かなめは後部の荷台に逆向きに跨って、追い抜かれていくひつじ雲をぼうっと眺めていた。百代蒐は無言のままペダルを漕ぐばかりで、かなめの瞼は重たくなってきた。何もすることはないのだ。

 トゥルル、と携帯の着信音にだからハッとして慌てて取った。


『よかった、つながった…… に、送ってくれた?』

「えっ、あ まだ で」

『なんで? もう間に合わないよ?』

 

 すこし苛立った女子の声が聞こえ、問い返そうとすると、ガタンと衝撃があって体が地面に投げ出されていた。自転車は横転して車輪がカラカラ回っている。


「チェーンが外れたな……」

 

 蒐はかがみ、直して自転車を起こす。顔だけ振り返った。


「誰だ?」

「分かんない。間違え電話かも」

「ふーん……」


 蒐は聞いておいて興味もなさそうにカランとペダルをひとつから回し、後部座席が沈むと漕ぎ出した。下り坂に差し掛かると、カンカンと踏切が鳴り始めた。胴に回された腕に力がこもる。


「で? なんで手足がほしいんだよ」

「手足ね……ばラけちゃったの。電車に轢かレて」


 坂道に自転車は加速するが、ブレーキはきかない。抱きつく腕が、メシリと骨を鳴らした。しかし彼はびくともしなかった。口から吐瀉を、果てに臓物を、吐き出すような怪力で締め付けられても。


「なんでョォオオオ⁉︎⁉︎」


 かなめ、、、の目は落ち窪み、眼球を落としたような暗がりになる。


「せっかちだな……人が自分の思い通りにならないと苛つくタイプだろ」

 蒐はせせら笑った。

「まあ、人じゃねーんだけど」


 ボッと、火が付いた。

 少女は発火して青い炎に包まれる。


「や、ヤダ みんな ばらばら ばらばらに バラバラにぃいいイ」


 手を離して髪を掻き乱すが、無意味に自転車は急降下していく。


「降りられないだろ、降霊ろされたんだから」


 蒐はハンドルに手を置くだけで、前を向いていた。やや同情気である。


「ただの怪異現象メールだけならどうしようもねえんだけど。形を持ったら滅される。干渉できると干渉される。ままならねえよなァ」


 少女だったものは黒焦げて、アアァと断末魔は小さくなっていた。だから独り言だろう。


「怖がらないっていうのは、無知かあるいは、害される恐れがない、、、、、、、、、ってことなんかな。くわばらくわばら」


「とも……コッ」


 ぼおおと蒼炎がひときわ燦めいて、止むとただ、元の少女がサドルに座っていた。


「御愁傷様」

 キッと停止線で自転車は止まり、ダダンダダンと電車が通り過ぎていく。ドンと少女の頭が背にぶつかって、弾みで彼女は目を覚ました。


「あれ え 寝ちゃってた? そうだ、電話がかかってきてね」


 扇かなめは携帯電話を確かめるが、着信履歴はない。

 遮断機は開いた。


「もう来ねぇよ」



 チェーンメールは回らない

 END「外れたチェーン」

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